bandicam 2018-04-03 21-26-09-331

20xx/ミステリー master
母方の祖母が信心深い人だった。

幼い頃、群馬の母方の家に行くと、よく子供だった自分の手を引いて山裾の神社に連れて行った。






20xx/ミステリー master
群馬は視界に山が入らないところが無い。
母方の家は、すぐ裏がもう山だ。

近隣の墓はほとんど山中にあって、蜘蛛の巣みたいに細かな路が入り組んでいる。
金比羅様と祖母が呼んでいた神社というのは、丸太の鳥居、破れた障子、抜けた濡縁。 管理されているとはとても言えぬ有様。

でも祖母は、何度となく私をそこに連れて行った。

細い山路を私は付いて行った。

祖母は神社をすごく有難がっていた。 7つか8つぐらいの時だと思う。

「今日は特別」

そう言った祖母は、荒れ神社の裏手に私を連れて行った。
初めて見る神社の裏は、昼なのに暗い。

夕暮れのようだった。

そしてそこには、人ひとりがようやく通れそうなくらいの、すごく細い路が続いていた。
20xx/ミステリー master
路を登り、下り、けっこう進んだ先は開けた場所だった。
明るくて、不思議な場所だった。

ローマのコロッセウムを半分にしたような、大掛かりな雛壇のような石積み。 段には小さい位牌のようなものがたくさん並び、短冊のついた笹、折り紙飾り、仏花で彩られ、 そよぐ風で風車が回転していた。

私は嬉しくなった。
手を合わせようとすると、祖母は私を叱った。

「ここは強い神様が居る。だからお願いごとをしてはいけない。 きっとそれは叶うけど、ここの神様は見返りを要求する神様だから」

そう言った。

そこにはそのあとも、もう一回だけ連れて行ってもらった。
やはり変わらず、鮮やかに飾られた、とても綺麗な場所だった。

私が中学校に上がってすぐ、祖母は亡くなった。
事故だった。

とても悲しかったが、突然だったので実感が持てなかった。

さらに時は過ぎて、私も大きくなり、 母から漏れる情報から、母の実家の状況が分かってきた。
20xx/ミステリー master
祖母の死の前。
母の兄は、自動車整備の会社を辞めて独立していた。

だが不況が重なり、相当苦労していたらしかった。
驚いた。

叔父は高校に進んだ私に、「誰にも言うな」とポンと10万円くれたこともある。

事業だって順調そのものだ。

母によると、祖母の死を前後して、赤字続きだった叔父の工場はグッと持ち直したそうだった。
私は例の不思議な場所を思い出していた。

もしかして祖母は、あの場所でお願いしたんじゃないだろうか。

『わたしはどうなっても構いません。倅の会社を救ってやってください』って。

きっとそうだと思った私は、もう何年も行っていないあの神社に、もう一度行きたいと思うようになった。

次に群馬に行く事になったとき、一人で神社に向かった。

久々で少し迷ったが、どうにかあの神社に辿り着いた。
でも、私の行きたい場所は此処ではない。

『あの場所』だ。

私は裏手に回った。
あの日と同じように。
20xx/ミステリー master
だが、そこに路は無かった。
あった形跡も無かった。

信じられなくて、何度も神社の周りを回った。 それでも無かった。

信じられなかった私は、上記のような『あの場所』の様子を、 母に、叔父に、祖父に、叔父の子どもたちに聞きまくった。

でも、答えは同じ。

「そんな場所知らない」

私は怖くなった。

すごく、すごく、怖くなった。 今、思い出しながら書いていてもスゴク怖い。

それ以来神社はおろか、裏の山自体にも近寄らなくなった。
20xx/ミステリー master
いや、それどころではない。
あらゆる山道に恐怖を覚えるようになった。

『あの場所』が、あの群馬の山中の何処かにだけあるとは思えなくなっていた。
いつか何処かで、突然あの場所に行ってしまうような気がするのだ。

あの頃は、自分の命を引き替えにしなければならないのなら、どんな願いも叶わなくていいと思った。

でも、今は必ずしもそうではない。
もしそんな切羽詰ったときに、またあの場所に行ったなら。


そう考えると恐ろしいのです。

記事一覧へ戻る



本日のオススメ

ピックアップ記事

参考:
Reddit
Daily Mail
Yahoo News
https://girlschannel.net/topics/-
ライター及び編集:saki