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昭和の若者が怖すぎwwwwwwww
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1: 2016/11/21(月) 21:00:51.99 ID:y+NcPp2n - 暇だからちょっと語らせてくれ
聞きたい人がいるかどうかは知らない。でもふっと思い出したから書く
書きだめはないのでごゆるりと待っててください
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- 2: 2016/11/21(月) 21:03:04.88 ID:y+NcPp2n
- この時俺は中二で…痛いやつ真っ盛りだった。
ただモテたいがためにってのと…姉貴がいて姉貴がベースをしてたから俺はギターを始めた
ギター自体は姉貴のやつを使ってた。もちろん全く弾けない。全然弾けない - 3: 2016/11/21(月) 21:08:00.65 ID:y+NcPp2n
- 姉貴にも亡くなるほど笑われたw
姉「ビートルズすら弾けないの?w」って感じで…悔しくて堪んなかった
姉貴はジャズばっか聞いてて正直メチャクチャ上手かった。
二人の共通項は洋楽好きってこと。ジャンルは全く違った。俺はこの時にわかで全然知らなかったけれど - 5: 2016/11/21(月) 21:12:41.52 ID:y+NcPp2n
- どんだけやってもコードチェンジが上手くいかない。ビートルズとかニルヴァーナとかメチャメチャギター簡単な曲すら弾けなかった。
それで結構すぐやめちったwww
ギターはインテリアと化してた。俺は音楽だけ弾いてギターは弾かないって日々が続いた。
因みに母は4んでていなかったけど親父はよくしてくれた。有名なゲーム会社に勤めててお金もあった。だからCDなんかは全部買ってもらってた - 6: 2016/11/21(月) 21:19:12.82 ID:y+NcPp2n
- そんでぐだぐだ過ごしてたら学校行事があった。その時だった。
うちのクラスのDQNがギターで弾き語りするっていう出し物をする事になったんだ。その時内心しまった!って思ったけど…
そいつ地味に上手かったんだよね。邦楽をしてた(確かtubeとか)んだけど歌も上手いしギターも弾ける。最悪だった。
俺のクラスはそいつを全面バックアップするってことに決まった。部活のやつは部活の出し物とかあったんだがいかんせん帰宅部だった…
俺はそいつのギター持ちになった - 7: 2016/11/21(月) 21:25:57.45 ID:y+NcPp2n
- DQN「ぜってー落とすなよ?落としたら葬られたすかんな?」
俺「分かってるよ…落とさんっちゃ」
ずっとこんな感じだった。こんだけ言っても俺より安物のギターだったんだけどなw
ギター持ちの仕事はかなり楽だった。でもものすごく悔しかった。学校行事でそいつは拍手喝采だった。先生からも受けがよかった
これでもう1回始めることにしたんだw - 10: 2016/11/21(月) 21:30:23.10 ID:y+NcPp2n
- インテリアと化してたギターを手にとって必4に練習…するはず無かった。それだけ意志が弱かったんだな、全然ダメ。
姉貴からはとうに見捨てられてた。俺はもうビーオタするだけの浮いた中学生になってた。
中二の終わり、俺は電車通学でいつものように電車に乗ろうとしてたんだが…いつもと違うんだな。
ストリートのミュージシャンがいた。俺はこんな田舎でなんになるんだ?金になるの?とか考えてた。よく見るとスーツはきてんだけど全体的にボロい。ハットも被ってるけどヨレヨレ。
こいつ…完全にホームレスじゃあねえか。
その時すぐ無視した。 - 11: 2016/11/21(月) 21:34:21.20 ID:y+NcPp2n
- 学校が終わってその日は珍しく友達と遊ぶことになった。俺ほとんど友達とかいなかったしなw
結構テンション高めで帰ったの。その時気付いて無かったけど、1回家に帰ってもっかい駅に行くとまだストリートのやつはいた。
こいつ何時間いるんだよ!?朝の8時に見て今夕方だぞ?って思ったのを覚えてる。
そのホームレスは意外とお爺ちゃんでそれもあってかギターケースには結構小銭が入ってた。
年を売り物にしやがって…それが最初の感情だった。ギター売れよwとかも思った - 12: 2016/11/21(月) 21:38:03.37 ID:y+NcPp2n
- チラッと見たとき目があった。うわっ最悪…
ジジイはにやっと笑ってイマジンを歌い出した。その時の俺がジョンレノンのシャツを着てたからだった。
俺「あれ?意外と上手くね?」
ジジイは声高々にイマジンを歌う。ギターは簡単なのは知ってたけど弾けなかったから羨ましかった。
気付いたらジジイの前に立ってた。ジジイはイマジンを歌い終わるとちょっとこっちを見て
「金」
とだけいった。 - 14: 2016/11/21(月) 21:39:37.00
- じじいwww
- 15: 2016/11/21(月) 21:41:29.38 ID:y+NcPp2n
- 俺「金?あーっと…」
ここで渡すのはなんだかしゃくだった。友達との約束ごとも忘れてジジイにいった。
俺「ビートルズ弾ける?」
ジジイ「あんなに簡単なの弾けねえやつおらんが」
カチンと来た。ビートルズを貶された気持ちにもなったし尚且つ俺の嫉妬が吹き出した。
俺「へー。ブラックバード弾けたら金やるよ」
ジジイ「…口の聞き方気を付けろい」
それでもジジイは笑ってたが。 - 16: 2016/11/21(月) 21:45:38.97 ID:y+NcPp2n
- どうせ無理だと思った。いきなりのリクエスト。しかもブラックバードは意外と難しいというのをCD屋のマスターから聞いていた。
ジジイ「ブラックバードシンギン…」
めっちゃうめえ。ふざけんな。期待を返せ。あとものすごく発音がよかった。本家のポールより歌が上手い気がした。
チャカチャカずっと鳴らして演奏は3分ほどで終わった。
ジジイ「…で?」ニヤ
このにやけにまたもカチンと来た。
俺「じゃあ次はアクロス・ザ・ユニヴァースだ!」
ジジイ「へいへい…」
といってチューニングをし直した - 19: 2016/11/21(月) 21:48:51.16
- そのシジイは交差点で悪魔に魂を売ったのさ…w
- 20: 2016/11/21(月) 21:49:07.08 ID:y+NcPp2n
- ポンポン
その時チューナーを使ってなかった。俺は合わせるだけでもチューナー頼りだったのにw
俺「チューナー使わんの?」
ジジイ「…チューナーねえw」
弾けなかったら葬られたしてやるとまで思った。マジで。
ジャラン…
完璧だった。完璧すぎてビートルズ聞いてるのすら恥ずかしいくらいの完璧。歌は上手いしギターに狂いはない。
ジジイ「…金」
流石にここで折れた。小銭入れから300円出してギターケースに入れた。
ジジイ「…お前中学生か?」 - 22: 2016/11/21(月) 21:53:13.23 ID:y+NcPp2n
- 俺「なんで分かったんじゃ?」
ジジイ「…額がショボい」
このジジイ、葬られたす。ジジイは笑うのを止めなかった。
ジジイ「お前今ビートルズきいてんのか?」
俺「ビートルズにニルヴァーナ。後はジョンのソロとか」
結構洋楽は聞いてると思い込んでた。でもジジイは鼻で笑って
ジジイ「…ロックってのを知ってねえなあ…」
ビートルズは大好きだったから腹立ったけどそれ以上にジジイに興味が湧いた。自然に怖いイメージは無かった - 23: 2016/11/21(月) 21:56:20.04
- んでんでんで
- 24: 2016/11/21(月) 22:00:37.81 ID:y+NcPp2n
- 俺「じゃあどんなんがロックなんだよ!」
ちょっとキレてた。まー痛い中学生だったししょうがないな。
ジジイ「まあ、待てや。俺はもうロックは飽きたんや」
俺「じゃあ何しよるん?」
ジジイはにやけて「教えられまっしぇーん」と言った。今でも覚えてるけどあのときの殺意。
ジジイ「…これくらい集まりゃいいか」
ジジイはギターケースをチラッと見て言った。確かに3000円以上あった。 - 28: 2016/11/21(月) 22:03:17.62 ID:y+NcPp2n
- ジジイ「お前ギターすんのか?」
俺は痛いとこつかれたと思った。隠してもしょうがないと観念した。
俺「したいけど出来ない」
ジジイ「なんでや?」
俺「弾けんけえじゃ」
するとジジイはカッカッカッって笑ってすくっと立った。意外と背が高い。多分170以上はあった。
ポンポンと肩を叩かれ聞かれた。
ジジイ「弾けるようになりてえか?」
俺「…うん」 - 29: 2016/11/21(月) 22:03:21.24
- 面白い
- 30: 2016/11/21(月) 22:05:55.76 ID:y+NcPp2n
- ジジイ「…ほんじゃ」
といってメモになんかかいた。それは空き地の場所だった。
ジジイ「明日土曜やろ?今のガキは土曜休みじゃろうからここ来いや」
俺「は?」
ジジイ「ギターは必ず持ってこいよ」
俺「何時や?」
ジジイ「…朝や」
友達から誘われなくなったのは言うまでも無かった。 - 31: 2016/11/21(月) 22:10:11.08 ID:y+NcPp2n
- 次の日朝8時に起きて少しドキドキしながら仕度した。姉貴からはどうした?って聞かれたけど友達の約束ってことにして出て来た。
空き地には既にいた。というより…そこがジジイの家だった。間違いなくホームレスだった。その空き地には小さな小屋があって中には四畳半くらいのスペースが裏の山手にあった。
ジジイ「来たな?くそガキ?」
そういって頭をがしゃがしゃされる。
俺「やめえや!臭くなるじゃろ」
ジジイ「…お前元気やなあ…」
その時ジジイはジャージにシャツ1枚だった。 - 34: 2016/11/21(月) 22:12:58.44 ID:y+NcPp2n
- 俺「しかし汚いな…」
ジジイは笑っているばかりだった。そのまま裏の小屋につれていかれた。
ジジイ「ここはスノウドニアっちゅうんや」
俺「スノウドニア?」
ジジイ「この小屋の名前や」
こいつ頭おかしいと思った。ほんとにこのジジイは大丈夫なんだろうか?殺されないだろうかというドキドキが出てきた。
ジジイ「…おい、ギター」
俺「へ?」
ジジイ「ギターだよ、練習すんだろ?」 - 37: 2016/11/21(月) 22:15:39.21 ID:y+NcPp2n
- そう言われて慌ててケースからギターを取り出す。ジジイのギターは野ざらしっぽかった。
ジジイ「へえ…ヤマハたあ良いもん持ってんじゃねえか」
俺「元は姉貴のじゃ」
ジジイははーん…といってまたにやけた。そこでやっと気付いた。
俺「ジジイのギター変なやつやな?」
ジジイ「お前ほんと生意気じゃな?」 - 38: 2016/11/21(月) 22:17:09.95
- みてるぞ
- 39: 2016/11/21(月) 22:18:52.36 ID:y+NcPp2n
- ジジイはそういってギターを取った。後に知ることになるがそれはドブロというアコギ(というよりリゾネーターギター)だった。
知りたい人は調べてほしい。俺はそのギターに興味津々だった。
ジジイ「これか?こいつは"よしの"じゃ」
俺「は?」
ジジイ「ギターの名前や」
なんでも名前つけるのか…ほんとに頭おかしいと思った。これまた後に分かるがジジイはなんでも名前をつけるクセがあったw - 42: 2016/11/21(月) 22:22:07.60 ID:y+NcPp2n
- ジジイはドカッと座って俺を見た。
ジジイ「何が弾きたい?」
俺は色々迷ったが好きな曲を素直に言った。
俺「ヒア・カムズ・ザ・サン。これしたい」
俺はジョージハリスンファンだったのだ。ジョージのシャツなんて1枚も持ってなかったがw
ジジイ「…分かった」
この時少し目付きが変わった気がしたんだ。俺はジジイに続いて汚い座布団の上に座ってギターを担いだ。 - 43: 2016/11/21(月) 22:26:39.96 ID:y+NcPp2n
- ジジイ「まあまずは焦るなや。キーから教えんぞ」
いきなり教則本を完全に無視だった。全くキーなんて言葉知らなかった。
ジジイ「…あー。キーってのはな?コードのベースや。簡単に言うとな」
それから基本音というのを教えてもらった。ジジイはやっぱり面白い人間だったが教え方も凄い上手かった。
焦らんでええ、手が小さいのはしゃあおまへんとか慰めの言葉をかけてくれてた。
まだまだ中学生。手が小さい上に飽き性だ。キー押さえるだけでつまらなくなっていった。そこでジジイの話題をふった。 - 47: 2016/11/21(月) 22:30:50.89 ID:y+NcPp2n
- 俺「なあ?ジジイってなんでホームレスなん?」
ジジイ「…うっさいわ。ホームレスでもええやろ」
俺「何歳?」
ジジイは少し考えて「68」とだけ言った。正直ジジイジジイと言ってたが見た目はもっと若かった。このジジイが60代なのも信じられなかった。
朝9時から約三時間。延々キーを単音で押さえるだけをしていた。正直つまらくなっていた。
俺「なー、こんなんで上手くなるん?」
ジジイはクスッと笑って俺の肩を叩いた
ジジイ「お前、名前と年は?」 - 48: 2016/11/21(月) 22:33:54.28 ID:y+NcPp2n
- 俺はいきなりでなんでこんなことを聞くのか分からなかった。
俺「俺は俺。14じゃ」
ジジイ「俺はジジイ、68」
益々分からなかったけれどちょっと面白かったw
ジジイ「…54も違えばギターの歴も違うっちゅうことや」
そういってすくっと立っていきなり着替えだした。
俺「なんで着替えるん?」
ジジイ「…金」
また一言呟いただけだった。 - 49: 2016/11/21(月) 22:37:03.65 ID:y+NcPp2n
- 俺もすぐ見たいと思った。ほんとはどんな音楽をするのか気になったからだ。
俺「着いていってええか?」
ジジイ「…変な目で見られるからやめえや」
俺「遠くで見とくわ」
ジジイ「…そうか」
そういって俺は自転車。ジジイは歩いていつもの駅まで向かった。俺のギターケースはハードソフトだったがジジイはハードだった。
俺「ケース重くないん?」
ジジイ「…まだ若いけえの」 - 51: 2016/11/21(月) 22:41:08.20 ID:y+NcPp2n
- スーツ姿に違和感しかなかったがスーツ姿でジジイは駅の前に陣取った。
ジジイ「…今日は焼き鳥だな」
俺「は?」
ジジイは無視してギターを取り出してチューニングした。そして筒状の変なガラスを出して歌い出した。
その声はとても力強くて、カッコよくて、渋かった。ジジイらしかった。ピックも使わずギターをバンバン叩きながら歌うのに俺は鳥肌がたちだした。
俺「ジジイ!」
話しかけても歌を途中で止めることはなかった。何度しても曲の途中で止めなかった。 - 52: 2016/11/21(月) 22:42:36.34
- 良いねー面白い
- 53: 2016/11/21(月) 22:44:27.85 ID:y+NcPp2n
- ジャラン…
ジジイ「なんや?うっさいのお…」
この曲の全てが知りたかった。訳の分からないことを歌っているはずなのにカッコいいだなんて今まで聞いたこと無かったからだ。
俺「なんや?今の曲?なんてタイトル?」
ジジイ「これか…これはなあデスレターっちゅうんや」
俺「デスレター?」
聞いたことも無かったし見たこともなかった。
俺「作者は?」
ジジイは既にまたチューニングしていた。それから少し音を替えてまたひきだした。今度は知ってる曲だった。 - 54: 2016/11/21(月) 22:49:37.31 ID:y+NcPp2n
- 俺「…スタンド・バイ・ミー?」
ジジイは結構大きな、でも優しい声でスタンド・バイ・ミーを歌い上げた。
すると会社員一人が金を落としていった。(確か会社員。記憶曖昧w)
ジジイ「…っし、仕事や」
ジジイはそれからずっと歌ってた。俺は途中で飯を食べにスーパーに買い物行ったりしてたがジジイはびくとも動かなかった。
ちょこちょこお金が増えていく。曲は知らないものから知ってたものまで色々あったが全てが洋楽だった。 - 55: 2016/11/21(月) 22:52:34.83 ID:y+NcPp2n
- 夕方になってもジジイは歌った。俺はそろそろ帰らないとまずいかなと思い出したときだった。
ジジイ「お前そろそろ帰れや」
まずい!顔にでたか?と内心焦った。でもそんな焦りとは真逆だった。
ジジイ「お前にやる焼き鳥はねえんじゃ」
そんなことかい。焦って損したわ。
俺「へー。帰りまーす」
すると後ろからジジイがボソッと呟いた。
ジジイ「…また明日来いや」 - 60: 2016/11/21(月) 23:03:58.75 ID:y+NcPp2n
- その次の日にも行った。またいた。
ジジイ「よおーきよったのお」
また前日と同じような日になった。三時間キーを単音で押さえるだけ。その日はちょっとリズムがついたが。
それから駅に行ってまたご飯の品目を言って歌い出す。最初に夜何を食べるのかを決めて歌うのだという。1日2食しか食べないとしってなんで4なないんだこのジジイと思った。
それからこんな変なジジイとのギター練習が始まった。
学校がある日はダッシュで駅を出てチラッとジジイを見てうなずく。ジジイはにやっと笑ってまたギターを弾く。これが今日は行くの合図だ。
といってもほぼ毎日行っていたんだがwww - 61: 2016/11/21(月) 23:04:56.65
- これ思い出した
https://youtu.be/MUcdDz7DUj4
- 62: 2016/11/21(月) 23:08:19.19 ID:y+NcPp2n
- ジジイが夕方少し早めに弾き語りを止めて小屋に帰った。それからは親や姉貴を心配させないために1時間半しかジジイに会えなかった。
ジジイはなんら嫌そうな顔せずにギターを教えてくれた。俺も一時間半しかないから真面目に練習した。
ジジイがしっかり褒めてくれてたからだ。間違っても
「あーそうじゃあねえな。こうだ」ってな感じで全然厳しくなかった。それでもサボらず練習した。
一軒家だったから音を小さめに家でも練習した。姉貴からは案外感心された。なぜかは知らない。 - 64: 2016/11/21(月) 23:12:50.12 ID:y+NcPp2n
- 俺は覚えが悪くて何回もイライラした。それでもジジイは笑うばっかりだった。
ジジイは駅でかなり上手いギターを弾く。俺はそれをしっかり見ていたんだがな…
運指が速すぎて見えないんだなw初心者にあれは無理だわw
それから1ヶ月が過ぎた。やっとこさキーをマスターした。どこがどの音ってのを完全に覚えた。
俺「よっしゃあ!」
ホントに声が出た。ジジイからテストを受けてそれに全てオーケーをもらったのだ - 65: 2016/11/21(月) 23:15:53.54 ID:y+NcPp2n
- ジジイ「はっはあ!覚えたなあ!」
そうやって肩をバンバン叩かれた。少し痛かったけど嬉しくてそれどこじゃなかった。
ジジイ「それじゃあ次は曲に行くかあ」
俺「ホントかよ!?」
嬉しくて大声を出した。
ジジイ「バカッうるせえ。たまたま近くに家がねえからって人がいるかもだろ」
俺「す、すまね…」
ジジイ「…スモーク・オン・ザ・ウォーターや」
俺「は?」 - 66: 2016/11/21(月) 23:16:20.15
- 大事なのはいかに音楽が好きで、その気持ちを維持する事心折れずに練習する事だよねー
テクニックなんて後で嫌でもついてくるからさー - 70: 2016/11/21(月) 23:20:35.25 ID:y+NcPp2n
- 全くもって騙されたと思った。俺が弾きたいのはヒア・カムズ・ザ・サンだ。ビートルズに取りかかれると思っていたのだ。
その怒りを察したのかジジイはやれやれと言った顔でギターを取った。
ジジイ「こういうのをロックっていうんや」
ジャッジャッジャー
あ、知ってる。聞いたことある。簡単そうだな…でもなんでこれがロックなのか?それが分からなかった。
ジジイ「…とりあえず本家聞いてみい」
そういって俺の授業ノートをひったくって
"Deep Purple smoke on the water"
と殴りかいた。 - 71: 2016/11/21(月) 23:23:55.91 ID:y+NcPp2n
- ジジイ「…聞いてみい」
その日はそれだけだった。家に帰って親父にテキトーに言い訳したあと聞いてみた。
俺「なあ親父」
親父「ん?」
俺「親父ってロック聞く?」
親父「有名どこだけな。俺はフォークのファンだからな」
俺はノートをこっそり取り出して聞いてみた。
俺「スモーク・オン・ザ・ウォーター?ってやつなんだけどある?」
親父は驚いた顔で椅子から立ち上がって笑った。
親父「お前もそんなん聞きたいのか」 - 72: 2016/11/21(月) 23:27:52.45 ID:y+NcPp2n
- 親父は和室に行って俺を手招きした。そこは立ち入り禁止の場所でこっそり入るとよく親父に怒られた場所だった。
そこにあったのはレコードプレイヤー。なんでレコードで聞くか分からなかった。
俺「俺の部屋にCDプレイヤーあるが?」
親父「バカ。それじゃダメだ。ダメなんだよ」
と無理矢理レコードで聞かされた。俺が始めて聞いたハードロックとなった。
「Deep Purple - Made in Japan」というアルバムだった。ライブ盤で今でも愛聴盤だ。 - 73: 2016/11/21(月) 23:32:46.02 ID:y+NcPp2n
- 衝撃だった。全ての曲が俺を揺らした。誇大じゃなくてホントに。声がでないの。
そんときホントの感動を知ったんだよね。それでホントに決めたの。ギターが弾けるようになりたいって。
それから3年生になった。始業式の時の安全訓話で冷や汗が流れた。
ホームレスと遊んだり関わるのは止めましょう。
ホントに俺はガキだった。ここで言うこと聞いたらロックじゃねえぜ!って思ったんだよな。まあ焦ったのは間違いないが。
教室ではありえないだとか気持ち悪いとか騒いでたけど俺は
ああ…こいつらはホントのロックを知らない。悲しすぎるぜ。とか自分に酔ってたわwww - 104: 2016/11/22(火) 09:18:48.62 ID:z028FGmR
- 俺はそれからもジジイとこに通った。中三という受験シーズンになっても変わりはなかった。いつものようにダッシュで家に帰ってギターを取ってこそっと駅に戻る。
ジジイはまた早めに切り上げて小屋にもどる。そしてスモーク・オン・ザ・ウォーターを聞いたことを伝えると
ジジイ「そうかそうか!」と笑ってギターを練習することになったのだ。
リフ自体は簡単だった。弾けるのに2日はかからなかった。でもその時に始めてアップピッキングというのを知った。 - 106: 2016/11/22(火) 09:22:18.89 ID:z028FGmR
- ジジイ「この曲のリフはな、アップピッキングなんや」
ジジイはそういってギターを爪弾く。俺はただ見よう見まねで言うとおりに弾く。曲になっていったのが楽しくてたまらなかった。
いつものようにキーを押さえたあとにスモーク・オン・ザ・ウォーターを弾く。それだけの変化で一時間半という時間が永遠のように感じたんだよ。
ジジイは上手い上手いと俺を励ましてリフを弾く。それからは曲のAメロからサビまで全部教えてくれた。
俺はこの時Fというかパワーコードすら押さえられなかったけどジジイはコツを教えてくれた。 - 107: 2016/11/22(火) 09:25:24.80 ID:z028FGmR
- ジジイ「パワーコードはな親指でEを押さえるとしやすいで?」
俺はこれで練習したせいでFは握りこんで弾くようになってしまったんだがw
でも確かに弾きやすかった。というより刷り込みだったんだろう。
真面目に練習すればソロ以外は1ヶ月程度だった。
でもある時だった。予想外に多くの金を手に入れたジジイはニコニコしながらある買い物をした。 - 108: 2016/11/22(火) 09:30:01.38 ID:z028FGmR
- 俺「何を買ったんじゃ?」
ジジイ「2ヶ月に1回の楽しみじゃ」
そういって買ったのはタバコだった。今でも覚えてるというか俺が今でも吸うきっかけになった。アメスピだった。
俺「ジジイはマイセンやろw」
ジジイは凄く幸せそうな顔をしてタバコを吸った。
小屋に戻った時にジジイがトイレで席を外した。その時ふっとジジイのギターが気になった。 - 109: 2016/11/22(火) 09:33:40.33 ID:z028FGmR
- ものすごい良い音がするしカッコよかったからちょっとした好奇心でそれを弾いた。
俺「意外と弾きにくいなあ…」
そしたらジジイはいきなり戸を開け今まで聞いたことの無い大きな声で
ジジイ「そのギターに触るんじゃない!!」と怒鳴った。俺はマジで焦ってこそこそと返した。
俺「ご、ごめん…」
ジジイ「…また明日来いや。今日はもうしけたわ」
この時が最初で最後のジジイのぶちギレだった。ホントに怖かった。見た目からは想像もつかないドスの聞いた声だった。 - 110: 2016/11/22(火) 09:38:14.06 ID:z028FGmR
- その日は半泣きで帰って家でちょこっと練習して寝た。
でも次の日行ってみるとまたジジイはけろっと笑って演奏を止めた。俺はホントに昨日のジジイか?と内心疑問だった。
スモーク・オン・ザ・ウォーターがソロ以外は完璧に弾けるようになったときに1つの思いがけない事がおこった。
中三の五月。その日は1日休みでまたジジイに教わって駅に向かったときの事だった。 - 111: 2016/11/22(火) 09:41:20.77 ID:z028FGmR
- ジジイが弾くいつもの場所に既に先客がいた。弾き語りの先客だった。
ジジイ「はー…珍しいこともあるんじゃなあ」
そこにいたのは黒髪が長く凄く美人、というより超俺好みの女性だった。正直一目惚れだった。
しかし変な点が1つあった。その美貌からかかなりのお金が落としてあったが小銭が投げられたときは深々と頭を下げるのにお札が入れられたときには普通に弾くのだった。 - 112: 2016/11/22(火) 09:46:22.73 ID:z028FGmR
- そんな変な違和感をうっすら感じているとジジイがスタスタ近付いていった。内心全く準備が出来てなくて慌てて追った。
ジジイ「嬢ちゃん、ギター上手いな」
とジジイはいきなり女性の横にドカッと座る。因みにその女性は折り畳み椅子に座ってた。
女性は横を向いてちょっとニコッとして
「もしかしていつもここで弾いてる人ですか?」と聞いた。
ジジイは腕を組んで絶世のドヤ顔で「いかにも!」と言った。ホントに吹き出しそうだった。 - 113: 2016/11/22(火) 09:58:10.51 ID:8JUj53kS
- すると女性が演奏を止めてジジイの方を向き満面の笑みで言った。
女性「私あなたに憧れてここで弾くことにしたんです!」
憧れ?ちょっと待てよwジジイに?俺はジジイがギターと歌が上手かったから興味を持ったんであって憧れとかはそんなに無かった。うっそだろwとか思ってたらジジイもウソでしょ?みたいな顔してた。
この光景うまく描写したいんだけどねwホントにシュールだったからwww
女性は尚も続けた。 - 114: 2016/11/22(火) 09:58:25.38
- 面白い! ライブインジャパン俺も聞いたわ~、35年ぐらい前にw
- 115: 2016/11/22(火) 10:04:17.74 ID:8JUj53kS
- 女性「いつもサンハウスとかジョン・リー・フッカーとかしてますよね!私好きなんです!」
俺にはジジイがやってた曲の作者なんて知らなかったがこの女性の趣味が相当渋いのが手に取るように分かった。
女性「私もやろうとするけど出来なくて…」
ジジイは驚いた顔を一瞬だけしてまた笑って女性の肩を叩いた。
ジジイ「なんも心配することないさ。嬢ちゃんだって弾けるぞ?」
女性は唐突にジジイに私の演奏を聞いてくれと言った。ジジイは何かはっとした顔をしてまた笑っていいぞと言った。 - 116: 2016/11/22(火) 10:08:22.26 ID:8JUj53kS
- 女性はアコギをチューニングしてセットした。よく見れば彼女は左利きだった。そういえばこの頃俺は既にチューナー無しでチューニング出来るようになっていた。というかさせられていた。
女性「じゃあ」とだけ言って演奏に入った。ものすごく上手い。ジジイとは違うけれど上手い。どこか優しげな音色が連弾で爪弾かれる。
ジジイはにやっとしてタバコを手に取りまた黙って演奏を聞いた。
一方の俺は「え?歌は?」みたいな感じでヤムチャ目線で曲を聞いてた。 - 117: 2016/11/22(火) 10:11:59.39 ID:8JUj53kS
- ほんの2分程度で演奏は終わった。俺には感動しかなかった。ジジイは大きく煙を吐き出すとにやついて
ジジイ「リトル・マーサか。嬢ちゃん渋いね」と笑った。その演奏にまた誰かが小銭を投げる。女性はすっとうなずいた。
ジジイはふっと悲しい顔をして溜め息をついた。
ジジイ「嬢ちゃん今まで大変だったろう?いくつよ」 - 118: 2016/11/22(火) 10:15:26.67 ID:xhZ+LYmS
- 俺はこの曲が弾けるようになるまで苦労したことかと思った。女性は笑って呟いた。
女性「ばれちゃいましたか…」
俺はすっとジジイの横にいって「何がばれたって?」と聞いた。ジジイは真剣な顔で俺の耳元で言った。
ジジイ「この嬢ちゃん"めくら"だよ」 - 120: 2016/11/22(火) 10:19:44.02
- 面白い
- 138: 2016/11/22(火) 14:16:44.54 ID:qljtUMUh
- めくら。この言葉の意味は中学生でも分かった。盲目の人だった。女性は目を開いてるのに見えないってのでちょっと絶望した。
でも瞬時に尊敬の念が出てきた。なんで目が見えないのに弾けるんだ?まさか音だけ!?ってな感じで。
女性「私は○○五十鈴。五に十に鈴で五十鈴です」
いきなりの自己紹介にもジジイは動じなかった。
ジジイ「ジジイや。68やで」 - 139: 2016/11/22(火) 14:20:39.90 ID:qljtUMUh
- 女性が年を言わざるを言えない状況にするあたりホントにデリカシーないと思った。女性は気にせずニコッとして「17です」と語った。
俺「姉貴と同い年やん…」
思わず言葉が出てしまった。女性はきょとんとして「そちらに誰か?」と聞いた。慌てて返事を返す。
俺「俺っていいます。中学生です」
女性「そう。俺君。お孫さん?」
いやー…といってジジイとクスッと笑った。
俺「俺はジジイにギターを教わってる立場です」 - 140: 2016/11/22(火) 14:25:31.92 ID:qljtUMUh
- すると女性は驚いた顔をして俺の手を取ろうとした。
女性「ズルいです!私も教えてほしいです!」
ジジイはカッカッカッと笑って女性の肩を叩いた。
ジジイ「よっしゃ!嬢ちゃん何が弾きたい?教えてやるぞ?」
女性は大きな声で「プリーチング・ザ・ブルース」と言った。
俺は盲目の彼女に恋をした。 - 141: 2016/11/22(火) 14:32:23.22 ID:qljtUMUh
- その日は俺だけ彼女の連絡先を手に入れみんな解散した。彼女は事情が事情だし週末の2日だけジジイに会いに来ることになった。
週末に予定を入れるきはさらさら起きなかった。親父が飯食べに行こうといっても断った。彼女に会えたらそれでよかった。でも1回もつ鍋に連れていくと言われた時はむちゃくちゃ考えた。
ジジイは俺に課題を出すようになった。コードを覚えろということだった。正直キーが分かっていて教則本を見ればすぐだった。
彼女にはボトルネックの扱いを1から教えてた。彼女は覚えがいいのかものすごく上手だった。それに歌も優しくキレイだった。 - 142: 2016/11/22(火) 14:37:15.31 ID:qljtUMUh
- 彼女は良く「リトル・ウィング」を弾いた。良く考えれば17にして弾ける人間は今からしたらそうはいない。上手いのも当然だった。
それに耳が良かった。俺のギターが少しでもチューニングが狂えば教えてくれた。3人ともチューナーなんて使わなかったw
いつものサイクルに彼女が加わった。俺は色んな意味でハッピーだった。何回も彼女で抜いた。失礼なことに盲目というのも興奮してた。中学生なんで許してくれやw - 143: 2016/11/22(火) 14:41:30.00
- 青春だなー
- 144: 2016/11/22(火) 14:41:30.85 ID:qljtUMUh
- 俺は彼女とよく話した。彼女もよく話してくれた。音楽に関してはジジイと彼女で語り合って蚊帳の外だった。
だから恥を承知で彼女に聞きまくった。どんな音楽が好き?カッコいいのを教えて下さい。
彼女は聞いた翌日にCDを持ってきた。
五十鈴「はい、これ。これスッゴいカッコいいんだ!今のバンドではこれが好きかな!」
そのCDはホワイト・ストライプスだった。その日から夢中でコピーした。パワーコードに単音リフ。意外と簡単に感じた。 - 145: 2016/11/22(火) 14:45:25.67 ID:qljtUMUh
- 中でもブラック・マースという曲は亡くなるほど弾いた。ジジイも彼女も凄いと褒めてくれた。
俺は自信がついて色んな曲をコピーした。正直言ってビートルズなんか忘れてたw
ディープ・パープルは難しすぎたけどホワイト・ストライプスとかニルヴァーナだったら簡単に出来た。
ギターを始めて半年と少し。俺のレパートリーは20曲を超えた。
彼女は色々な音楽を教えてくれた。ロックからブルース。ジャズにクラシックまで。しかも即日CDを持ってきてくれた。 - 146: 2016/11/22(火) 14:48:29.63 ID:qljtUMUh
- 俺「気になったんですけど」
この口調はいつもジジイに笑われる。ジジイにはため口の癖に女性には敬語ってところが面白かったんだろう。
五十鈴「なあに?」
俺「なんでそんなにすぐに大量のCDを持ってこれるんですか?」
五十鈴「えーとねえ…」悩む姿すら可愛くてしょうがなかった。
五十鈴「そうだ!1回うちにきなよ!」
唐突に。その時ジジイはいなかった。勝手にお家にお呼ばれしてしまったのだ - 147: 2016/11/22(火) 14:52:56.34 ID:qljtUMUh
- 嬉しくて堪らなかった。その日は親父に勉強しろと言われていたけれどそんなの知ったこっちゃ無かった。
いつもの駅で待ち合わせて俺はジジイがつけてないかどうかを調べて出会った。やっぱり駅の階段は危なっかしかった。
通行人は彼女の杖を避けない。気にしない。後に聞いた話だが何回も転ばされたという。
五十鈴「おまたせ!」
俺「う、うす…」
五十鈴「じゃあ私の目になって!」
そういって腕を捕まれた。正直泣きそうだった。彼女の身の上に勝手に同情してた。 - 148: 2016/11/22(火) 14:59:56.95 ID:qljtUMUh
- それからその駅に戻って2駅ぐらい進んで降りた。正直自転車でも行けた。
彼女とひたすらに点字ブロックの上を歩いて不意に彼女が止まった。
五十鈴「今右にお店あるよね?」
俺「え、ええ。ありますよ」
五十鈴「そこ!」
そこは小さな古楽器店だった。そこが彼女の家だった。(正確には住む家はもっと駅の手前にあった)
カラン
いらっしゃいと出てきたのは女性だった。彼女の母親兼店長だった。 - 149: 2016/11/22(火) 15:06:39.27 ID:qljtUMUh
- 彼女母「あら?その方は?」
説明しようとすると遮られた。
五十鈴「私の目!」
俺は恥ずかしくってちょっとと止めにかかってた。母親はあらあらとにんまりしてたのを覚えている。
店内はやっぱり広くは無かった。楽器だけでなくCDも置いていた。しかも凄い数が仕舞われていた。
俺「すっげー…」
彼女母はふふんと鼻をならした。彼女母は若いときはかなりの美人だったんだろうなあという顔。この母あってこの娘。という感じだった。 - 150: 2016/11/22(火) 15:11:57.37 ID:qljtUMUh
- 店にはもう一人いた。彼女の妹だった。彼女の妹はなんと俺と同い年。縁を感じざるを得なかった。
それから夏休みに入った。夏休みになると流石に勉強しなければいけなかったからジジイと彼女に会う時間は減った。
1週間に2日だけ。その時を全力で楽しんだ。
夏休みのある時。
ジジイ「お前の歌な。なんか違和感あるんだよ」
歌は全て耳コピ。英語の意味なんて知らなかった。
五十鈴「私もかんじてました」 - 156: 2016/11/22(火) 15:16:25.40 ID:qljtUMUh
- ジジイと彼女は考える…ふりをしてた。
ジジイがわざとらしく手を叩いて言った。
ジジイ「英語だ。こいつは英語喋ってねえんだ」
彼女も大きくうなずいた。正直文法英語は苦手だった。文系な俺は数学は論外だったが英語も少し苦手だった。
俺「あー確かにそうかも。英語苦手じゃけえ」 - 159: 2016/11/22(火) 15:21:16.30 ID:qljtUMUh
- ジジイ「それじゃあ意味ねえじゃねえかwww」
ジジイはガハハと笑ってまた肩を叩いた。彼女の前でそんな1面見せたくなかったから恥ずかしかった。というより聞かせたくなかっただな。
ジジイ「それじゃあギターはだいぶ出来るようになったけえ英語を教えるか」
俺「は!?なんでここが学校になるんだよ!」
ジジイは手を出して首をゆっくりふった。
ジジイ「俺は学校教育みたいな情けねえ英語は教えねえ。発音と慣用句。これだけで英語は喋れる」 - 160: 2016/11/22(火) 15:26:34.74 ID:qljtUMUh
- ジジイはそう豪語した。彼女はギターをポロンと弾いて
「めくらな私でも日常会話は出来るよ!頑張ろ?」と言ってくれた。この時始めて彼女が英語を喋れることに気付いた。
益々惚れたがジジイも英語を喋れることに驚いた。確かに発音は良かったけどまさか喋れるなんて…
かくして中学生の俺。ホームレスのジジイ。盲目の五十鈴。こんな変な3ピースはギターに打ち込んだのだ。 - 178: 2016/11/22(火) 20:01:33.11 ID:qljtUMUh
- そこからは変な日常が始まった。ギターのトレーニングの前に発音の練習からだった。歌詞を見させられジジイと付きっきりで発声。恥ずかしい上に意味不明だった。
でも文法があーだとか単数がーとか全く無かった。ジジイ…発音上手い…何もかもジジイに負けたと思った。
夏休みの間ほとんどそうだった。そして夏休みが明けたとき、俺はこのトレーニングによって新な効果を実感した。
二学期が始まってすぐテストがあった。それなりに勉強してたから大丈夫だろうと思ったけど少し不安だった。 - 179: 2016/11/22(火) 20:05:42.29 ID:qljtUMUh
- でもその時の英語のテストである変化がおきた。俺はリスニングが得意じゃなかった。
英語が分かる!聞き取れる!
自分でも恐ろしく解けた。結局蓋を開ければ学年3位までになっていた。
幸せだった。変な意味でのリア充。それも嬉しかった。人と違うことをしている自分も好きになっていった。
この結果に親父はもちろん姉貴やジジイ、彼女も喜んでくれた。彼女はCDをくれた。クリームという可愛らしいバンドのCDだった。 - 180: 2016/11/22(火) 20:10:58.88 ID:qljtUMUh
- ここでクリームというバンドに出会ったことで俺はブルースの重要性を感じることになるのだがまあ詳しくは書かない。あんまジジイとの関係もないし。
ジジイはある時歌う場所を変えると言い出した。俺にはなぜか分からなかったが多分警察がチラチラうろついていたからだろう。彼女もそれに応じて歌う場所を変えた。
それは山の麓の公園。
ジジイは嘆きながら
「駅前のほうがもうかるんだがな…」と呟いた。
山までの彼女の行き道は俺が自転車で二人乗りすることになった。 - 181: 2016/11/22(火) 20:13:44.80
- それから?
- 182: 2016/11/22(火) 20:13:51.29 ID:qljtUMUh
- 年が明けた。ジジイは結局一年間以上も俺にギターを教えてくれた。俺はあんまり上手くはならなかったが。
年明けすぐにジジイに会ったときこんなことを言い出した。
ジジイ「…俺はな。ホントは長居するつもりなんて無かったんじゃ」
俺「は?じゃあどがんするつもりやったんじゃ?」
ジジイ「旅から旅の根なし草。俺はずっとそうしてきた」
そう言われてあることが俺の脳裏をよぎった。そのまま伝える。 - 185: 2016/11/22(火) 20:16:56.20 ID:qljtUMUh
- 俺「…その前はなんしよったんじゃ」
ジジイ「その前って…ホームレスに旅人になる前っちゅうこと?」
旅人なんざカッコつけやがってw笑ってしまうぜw
俺「そうじゃ。なんかしよったんじゃら?」
ジジイは頭をポリポリ掻いて口を濁した。そんなジジイは珍しかった。というより一年間も一緒にいたがジジイの身の上話は全然してこなかったんだよ。
ジジイに興味が無かったわけじゃない。でもそれ以上にジジイから学ぶことが多かったんだ。 - 186: 2016/11/22(火) 20:19:48.60 ID:qljtUMUh
- でも今度こそはジジイを吐かせたかった。このままじゃいつか壁になる。中学生なりに必4に考えた末だった。
俺「はっきしせえ」
ジジイ「あー!分かった!話す!こっちきい!」
いつもの小屋に行くと思えば全く別の方向に歩き出した。
俺「ちょお!どこいくんじゃ」
ジジイ「…黙ってついてこい!」 - 187: 2016/11/22(火) 20:22:46.32 ID:qljtUMUh
- ジジイは悲しそうでもあり嬉しそうでもある何とも言えない表情で俺を連れる。
ジジイ「…お前、金あるか?」
俺「ジジイよりはあるわい」
ジジイ「ぬかせw」
ジジイと俺はひたすら歩いた。彼女はそこにはいない。連れていくと言えば今日は誘うなと言われた。
着いたのは市の外れの銭湯だった。小さな銭湯だが意外と新しかった。
ジジイ「…腹割って話そうや」
その時のジジイはいつもより数段若く見えた。 - 188: 2016/11/22(火) 20:26:18.05 ID:qljtUMUh
- 銭湯に入って身体を洗う。ジジイはにかっと笑ってジジイの背中を指差した。
ジジイ「お前、身体あらっちくれい」
俺「はあ!?嫌じゃ!」
ジジイ「ええから。損はねえぞ?」
俺「損しかないわいw」
そう言い合いながらも結局二人して洗った。親父以外と風呂に入るなんて始めてだった。中学の修学旅行は風邪で休んだしな。
ややあって湯船に二人で入る。客は他に誰もいなかった。 - 189: 2016/11/22(火) 20:30:02.38 ID:qljtUMUh
- ジジイ「で?何から聞きたい?」
珍しくジジイからの質問。いや下らない質問は嵐のように受けたけど…
俺は経歴を追うことにした。
俺「生まれは?」
ジジイ「満州じゃ」
俺「は?」
ジジイは戦前の満州で生まれたらしい。戦争中に日本に来たという。
ジジイ「だからって俺は支那人でもねえぞ?根っからの日本人や」
ジジイはいつものおしゃべりになったがどこか面持ちが違った。ああこれは裸のマジの付き合いなんだなとガキながらに感じた。 - 190: 2016/11/22(火) 20:34:37.02 ID:qljtUMUh
- ジジイ「頑張って大学まで行った。何回も亡くなったがましかと思ったが人生は楽しかった」
もはや質問はいらない。俺は黙って粛々と聞いた。
ジジイ「卒業して就職した。国鉄に入った。日本の立ち直りを支える誇りを感じながら仕事をしちょった」
ジジイ「その時くらいやな。日本に海賊レコード言うてな?アメリカのが入ってくんねん」
ジジイ「俺は音楽が好きじゃったけえしっかり買った。それにはアメリカの最新の音楽がつまっちょった」 - 193: 2016/11/22(火) 20:38:34.05 ID:qljtUMUh
- ジジイ「あの子がお前に持ってきたこともあるやつや」
あの子は五十鈴を指していた。その時ロックの歴史ってことで色々借りたのを思い出した。
ジジイ「俺はチャック・ベリーに心をうたれた。感動した。俺はこういうのをやらないかんち思うた」
ジジイ「しかしなあ、ギター揃えていざっゆうてもな海賊レコードはな、音質が悪すぎるんや」
ジジイ「ザッザッ言うしな?それで最初は諦めた。お前とおんなじや」
そういってにっこり笑った。 - 194: 2016/11/22(火) 20:42:58.86 ID:qljtUMUh
- ジジイ「俺はお前よりもっとひどいぞ?それから3年もギターには触れんかった」
意外だった。ギターが大好きだと言っていたジジイの話とは思えなかった。
ジジイ「しかしなあ、昭和の40に入るとな、周りにちょこちょこギターをするやつが出てきた」
ジジイ「その時に俺の嫌いな同僚がギターをこうたっち聞いた。これはやるしかないと思った」
なんか…ほとんど俺と同じきっかけな気がするんだが?言いたくてしょうがなかったがまだこらえた。 - 234: 2016/11/24(木) 01:13:14.69 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「やっぱり弾けね。絶対ひけないと思った」
ジジイ「それでもしっかり練習した。1日仕事以外はギターにぎっとったわ」
このジジイが真面目に練習?それだけで俺には不思議な感覚だった。
ジジイ「それでなある時レコードと同じように弾ける俺がいた」 - 238: 2016/11/24(木) 01:21:46.57 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「といっても原曲の早さはすごかった。チャック・ベリーは意外とはやびきだぞ?」
またそしてにやっとした。仕事以外って国鉄って忙しいんじゃねえの?ガキの俺にはぼやっとした思いしかなかった。
ジジイ「それからちょっとして海外出張があった。行き先はイギリスだった」
俺の脳裏に不意によぎったあるバンド…
俺「ちょっと!それ何時の話?」
ジジイは笑って言った。
ジジイ「昭和36の冬から37の春。西暦は…」
ジジイ「1961年から1962年やな」 - 240: 2016/11/24(木) 01:26:24.74 ID:DX2dcY/Q
- 俺「もしかして見たんか?」
ジジイは顔をゴシゴシ。話をじらすな!
ジジイ「見たさ。ビートルズにたまたま来てたマディも見たさ」
マディ?そんなのは知らなかった。ビートルズを見たという衝撃。しかもデビュー前だと…?
マディとはマディ・ウォーターズのことでこの話を後に五十鈴にするとそっちの方を羨ましがっていた。 - 241: 2016/11/24(木) 01:30:07.43 ID:DX2dcY/Q
- 俺「どのくらい!?」
ジジイは溜め息をもらして呟いた。
ジジイ「わりいな。ビートルズはあんまり面白く無かったんじゃ」
俺「は!?」
ジジイ「ギターは下手くそだし歌も下手。曲作りも単純でバカみたいな英語ばかり。ホントにイギリス人か疑ったよ」
ここまでビートルズをこき下ろした人間は後にも先にもジジイ以外見たこと無い。あ、2chではチラホラいたかもw
ジジイ「俺はマディやチャックに憧れたしイギリスでブルースを知った。出張から帰って来たら必4に耳に残った、目に焼き付いたフレーズを練習したさ」 - 244: 2016/11/24(木) 01:34:00.53 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「そうすると意外と弾けてた。上手くなるのが実感出来てた」
ジジイ「そうすると知りたくなるのがチャックやマディは何を元に弾いてきたのか」
ジジイ「そもそものルーツはなんだか知りたくなったんじゃ」
ジジイの指がチラッと映る。切れてるのか指の色が変色していた。
ジジイ「それから少しして俺は見合いをした。それで結婚した」 - 245: 2016/11/24(木) 01:39:53.86 ID:DX2dcY/Q
- 俺「あれ?ジジイ奥さんいたんか?」
ジジイ「ああ、俺にはもったいないくらいの嫁がな」
なんで嫁がいるのにホームレス?あっ…
ジジイ「その嫁は"よしの"といった。俺より3つ上でいい女だった」 - 247: 2016/11/24(木) 01:43:04.30
- 色々あったんやろな…爺さんも
- 248: 2016/11/24(木) 01:44:13.77 ID:DX2dcY/Q
- 1つのギターが頭に浮かぶ。そうか、あのギターはそういうことか。
ジジイ「よしのは俺のギターをよく褒めてくれた。俺はもう30になろうとしていた」
徐々にジジイの目が潤む。俺は気付いてないふりをする。
ジジイ「会社でも出世した俺が30だったか?確か課長になったはずだ」
今考えれば国鉄の課長に30でなれるなんて化け物だよなw苦労したと今なら分かる。 - 249: 2016/11/24(木) 01:47:36.60 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「俺が出世した辺りで音楽雑誌にあるバンドが載った」
ジジイ「俺はその時流行ってたビートルズは余り興味無かったがベンチャーズは好きだった」
ジジイ「俺は基本的に技術力があるやつが好きじゃけえなw」
ジジイは大笑い。そうだったんだと言って俺も少し笑った。
ジジイ「クリームだった。最初はふざけた名前だなと気にもとめてなかったんだがな」 - 250: 2016/11/24(木) 01:51:28.77 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「そしたらロック好きの部下がな、持ってきやがった」
ジジイ「1日だけ借りて聞いてみた。俺は分かったんだな。ブルースの大切さをな」
ブルース。ジジイがしてた音楽はそういうのか。五十鈴も時々ジジイのブルースは本物だと言っていた。ブルースの本物?意味が分からなくて気にもしてなかった。
ジジイ「益々ルーツを探した。30過ぎてバカやったさwww」
大きく笑うが目は真剣な目付きだったのを覚えている。俺はジジイにとってブルースはとても重要なものと察した。 - 251: 2016/11/24(木) 01:55:42.03 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「するとな、海賊レコードの主人がやってくれたさ!ブルースを見つけてくれた」
ジジイ「主人はアメリカから来たといった。見つけるのに苦労かけたわw」
ジジイ「俺の初めてのブルースはサンハウスじゃ」
今なら分かる。ジジイは永遠にサンハウスの背中を追い続けたんだ。だってリゾネーターなんて使わねえよな?
ジジイ「よしのもカッコいいですねと言いやがる。男だったら女の為にギターを弾くもんじゃろ!?」 - 252: 2016/11/24(木) 01:59:39.99 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「家ではギターばっか触ってたな。34にもなると子供が出来た。一人息子。子供はそれだけ」
子供もいたのか…尚更何してんだよ…
ジジイ「俺はあの時代を生きて幸せじゃった。それから色んなバンドが出た。ほとんど海賊を買うてな?音質がわりいわりい」
ジジイ「それでもブルースの影響を受けてるやつは片っ端から聞いた。フリーなんて亡くなるほど聞いた」
ジジイ「いつか部下が話したことだがクラプトンやジョン・レノンは課長より年下ですよ?ってのはショックだったわ」 - 253: 2016/11/24(木) 02:03:27.58 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「まあそれでもエレキは弾く気にならんかったわ。まあアコギは一人で出きるしな」
ジジイ「ある時よしのがプレゼントをくれた。今でも覚えてるわ」
ジジイ「38の誕生日。ギターをくれた。今も使ってるあいつだ」
あれそんなに古いのだったのかよ!?俺はびっくりたまげてたわ。
ジジイ「内緒でよしのなんて名前をつけた。ばれてたまるかい、恥ずかしいw」
笑ってはいるがとても嬉しく誇りにしているのが伝わる。俺のギターもそうなれば…そんなことを思った。 - 254: 2016/11/24(木) 02:04:53.57
- エエ話やね
- 256: 2016/11/24(木) 02:07:11.28 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「そこでな?不思議な縁でな。大学の教授やっちくれいって誘いがあった」
ジジイ「俺が?なんて思ったさ。まあ面白そうじゃ、受ける。2つ返事じゃ」
今の感覚ではこのジジイねらーかよw何の縁でそうなんだよとか思ってた。
ジジイ「そして※※大学に行った。まあ母校だったしな」
あれ?どこかで聞いたことがあると思った。親父の母校だった。 - 268: 2016/11/24(木) 22:09:45.85 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「それで40で母校の先生じゃ」
ジジイ「そうやな、今から30年くらい前じゃ」
ジジイは懐かしそうに語る。
ジジイ「そこのアコースティックギター部の顧問もした。あんま教えられんかったが」
ジジイが他に教えてる人間がいたのか…そもそも大学の客員とはいえ教授なんだからあんだけ教えるのが上手かったのかと納得した。 - 270: 2016/11/24(木) 22:11:54.32 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「お前1つ勘違いしとるぞ?」
ジジイはにやっと俺を見る。
俺「何がじゃ?」
ジジイ「俺は昔は厳しかったんだぞ?めたらめっぽう誉めたりなんざしねえ」
衝撃だったな。これも。あんなに愉快で褒めちぎりのジジイが?厳しかった?ウソにしか聞こえない。
俺「ホントか?それ」 - 271: 2016/11/24(木) 22:14:59.41 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「なめられねえよう必4だったからな。大学生だろうと容赦はしなかったぜ?」
俺は口をポカン。
ジジイ「それから少しして、つーても昭和の終わりになった頃かな?」
突然悲しい顔をした。とても、とても胸に来る表情だったのを覚えている。
ジジイ「息子が亡くなった。単に事故だったがな」 - 272: 2016/11/24(木) 22:18:06.98 ID:DX2dcY/Q
- 息子さん…亡くなったのか。俺はまるで身内が亡くなったかのように心に深い感情を抱いた。
ジジイ「…湯冷めすんな。上がるか」ザバッ
パシッ
俺「…湯冷めでいい。続き。話して下さい」
これが俺のジジイに対しての最初で最後の敬語だ。ジジイは驚いていたがまたすぐに笑って
ジジイ「風邪引いたらお前のせいじゃけえな」
とまた湯船に浸かった。 - 273: 2016/11/24(木) 22:21:19.60 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「息子は12で亡くなった。西暦だと…1982年だな」
ジジイ「あの時はよおく覚えてるわ。マイケルジャクソンがスリラーを出したんじゃ」
いきなりのことに何のことか分からなかった。マイケルのスリラーは俺でも知っていたが…
ジジイ「連日ゾンビの映画が流れたな。俺はな壊れたかもしれんかった」
ジジイ「…ゾンビでいい。息子を返してくれ。俺もそしてゾンビになるから」
ここはよく覚えている。余りにも悲しく切なかった。俺はもう熱いものをこらえられなかった。 - 274: 2016/11/24(木) 22:25:05.25 ID:DX2dcY/Q
- ジジイは俺の涙に気付いていたのか気付かなかったか。まあ気付いていただろうな。それでも話を続けた。
ジジイ「酷かったのはよしのだった。あいつは息子の名前をただ呼ぶのみ。見てられなかったわ」
ジジイ「…それでも俺は仕事をした。息子を忘れたかったんだろう」
ジジイ「それからだんだんよしのも立ち直った。戦争後の日本を支えた二人だからな。やわじゃあない」 - 275: 2016/11/24(木) 22:30:34.21 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「時代は俺らを置き去りに進んだ。その間も多くの生徒から慕われた。俺は幸せじゃった」
泣き続ける俺。なんてジジイに声をかけよう。そんなこと思えなかった。ただジジイに同情した。
ジジイ「よしのが還暦になった年よしのは病気になった。もう助からん。そう言われた」
俺「…は?」
ジジイ「よしのは余命半年と言われた。今から思えばあの医者はヤブじゃな」
ジジイは笑った。 - 277: 2016/11/24(木) 22:35:52.85 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「よしのに俺はよくギターを聞かせた。ブルースじゃあねえ。イーグルスとかドゥービーとかだ」
イーグルスもドゥービー(ブラザース)もほとんど知らなかった。
でも今なら…なるたけ明るい、気さくな音楽を届けようとしていたのが伝わる。
ジジイ「あいつはスタンド・バイ・ミーをよく歌えと言った。あげな簡単なやついくらでも聞かすわw」
笑ってはいるが、もはやジジイも、限界だった。 - 278: 2016/11/24(木) 22:37:14.03
- 凄く面白い!
- 279: 2016/11/24(木) 22:40:40.72 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「よしのは…よしのは余命半年ながら3年も生きた。俺が還暦の誕生日、あいつは亡くなった」
ジジイは泣いていた。俺も泣いていた。浅い湯船に湯を増やすかの如く涙は流れた。止まる気配もない。止める気も…無かった。
ジジイ「…すまんな。こんな…」
俺「いいから…続けろ」
ジジイ「ふん!」
手で顔を拭った。ジジイはやっぱり若く見えた。 - 280: 2016/11/24(木) 22:45:53.23 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「周りも良くしてくれた。特に生徒は花束をよくくれた」
ジジイ「でももう…そこにはおれんかったわ」
ジジイ「それで…ホームレスや」
俺「おかしいだろ。別にホームレスなる必要ないじゃろ」
ジジイ「…よしのはほとんど東京から動いたことが無かった。だから俺は使命を感じたんじゃ」
ここで使命という言葉を使ったのをよく覚えている。もう12年も前なのになw - 281: 2016/11/24(木) 22:48:57.44 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「俺はよしのに日本を見せるんじゃ」
ジジイは涙を流しながら笑った。俺は少しおかしくて、笑った。
俺「あんなに叩き付けて弾いてええんか?」
ジジイ「アホ、あれは音楽じゃ。しゃあないわ」
俺「…そうか」
言い返しはしない。ジジイがそういうならそうなのだ。 - 282: 2016/11/24(木) 22:52:01.58 ID:DX2dcY/Q
- ジジイ「…そうだ」
ジジイはもう泣いてなかった。顔をバシャバシャさせて、俺に聞いた。
ジジイ「お前、あのめくらの娘、好きか?」
いきなりの問いに俺は本当に溺れるかと思った。なんで五十鈴さんを?この流れで?
ジジイの目は…また真剣だった。 - 283: 2016/11/24(木) 22:57:36.43 ID:DX2dcY/Q
- 俺「…ああ。好きだ」
ジジイは立ち上がって湯船を出た。そして振り替えって俺を笑った。
ジジイ「…曲を作るぞ」
帰って風邪なんてひかなかった。それから俺は彼女に隠れて初の曲作りをしていた。ジジイはとても、とても嬉しそうだった。
それから受験が終わった。家から一番近い公立に合格した。まあ別に勉強は出来たしランクも落として受験したしな。親父には不思議がられたが特に何も言われなかった。 - 284: 2016/11/24(木) 23:02:30.72 ID:DX2dcY/Q
- 高校では部活を始めた。これは親父との約束だったからだ。入る部活も決められそうになかったからこれも親父に決めてもらった。
そこではいったのは弓道部だった。そこで二人の友達が出来た。音楽のジャンルが結構似通ってたし二人とも楽器をしてたからな。
ぼっちの俺はもういなかった。すげえ嬉しかった。
しかしある時事件が起こった。姉貴にジジイと会っているのを見つかった。 - 313: 2016/11/26(土) 21:35:14.11 ID:FVaEeH7f
- 姉貴「…なにしてんの?俺?」
正直いつもの公園ならばれないと思った。トレーニングの為にランニングを始めた初日だったらしい。
ジジイは全然動じてはいなかった。
ジジイ「おりょ?知り合いか?俺」
一方の俺は汗だくだった。姉貴は怒るとメチャクチャ怖い。さらに親父はもっと怖かった。二人とも普段は温厚なのに怒ると怖いんだ。それは今も変わらない… - 315: 2016/11/26(土) 21:37:21.61 ID:FVaEeH7f
- 姉貴「どうみてもホームレスでしょ?なにしてんの?」
俺「…ギターを」
姉貴「聞こえない。はっきり喋って」
ジジイは笑っていた。
俺「ギターを教えてもらってた」
俺と姉貴の尋問は続いた。
姉貴「…いつから?結構前からなんでしょ?」 - 316: 2016/11/26(土) 21:39:17.79 ID:FVaEeH7f
- 俺「えーと…1年くらい前から」
姉貴「1年!?受験だったのに!?」
ジジイはまたガッハッハッと笑った。俺はそれどこじゃない。
俺「で、でも高校はちゃんと受かったし」
姉貴「ランク落としてたでしょ!」
俺「…」 - 317: 2016/11/26(土) 21:42:22.18 ID:FVaEeH7f
- ジジイは立ち上がって姉貴の肩を叩いた。姉貴はすぐその手をはたいた。
ジジイ「ふーん。姉ちゃん、楽器は?」
姉貴はとても冷たい目をして言った。
姉貴「関係ないでしょ。近づかないで」
ジジイよりも俺のほうがぶちギレそうだった。
俺「あのさ、ギター教えてもらった、いわく先生なんだよ。失礼すんなよ」 - 318: 2016/11/26(土) 21:45:31.60 ID:FVaEeH7f
- 姉貴「うるさい。家に帰るよ。その人も一緒だよ」
ジジイは気にせずまた座ってギターを手に取った。俺は内心焦った。親父の元に連れてかれるのは勘弁だったからだ。
ポロロン…
俺「あっ…」
ジジイはリトル・マーサを弾き出した。五十鈴がよくしていたので覚えていた。
姉貴「…うま」
この時だけ少し姉貴の目が優しくなった。でもすぐに俺を向いて
姉貴「行くよ」 - 319: 2016/11/26(土) 21:49:13.67 ID:FVaEeH7f
- 俺「…お、うん。じゃあジジイ頼むよ」
ジジイはふうっと溜め息をついてしゃあないわと立ち上がった。
そうして3人で重い足取りで家に行った。ジジイは俺の家が見えると俺にいい家だなと呟いた。それに誰も返事を返さない。
家に入ると親父はコーヒーを飲んでた。姉貴はすぐに親父に向かって話した。
姉貴「こいつホームレスなんかにギター教わってたから高校のランク落としたんだよ!」 - 320: 2016/11/26(土) 21:53:03.02 ID:FVaEeH7f
- 明快にしかも単刀直入に切り出した。親父はゆっくりこっちを見て「なんだと?」と言った。ドスが効いてて凄く怖かった。
だけどすぐに親父の態度が変わった。驚いた顔でこっちに来た。
親父「…ジジイ、先生?」
俺と姉貴は頭に?を浮かべて親父を見つめた。ジジイも誰だか分かってない様子だった。
親父「やっぱりだ!先生でしょう、ゼミの親父ですよ!」 - 321: 2016/11/26(土) 21:55:36.06 ID:FVaEeH7f
- ジジイはまだ覚えていないふうだった。それに見かねて親父は本棚をガタガタいじって1冊の本を出した。
親父の大学のアルバムだった。
親父「ほら!これですよ!」
ジジイ「うーん…ああ、親父君か!久しぶりだなあ」
親父「…お久しぶりです!」
そういって親父は泣き出した。親父が泣いた回数はホントに少ない。だからとても印象深い。姉貴もそうだった。 - 323: 2016/11/26(土) 22:01:28.54 ID:FVaEeH7f
- ジジイ「何も泣くこたあねえじゃねえか。久々じゃ」
親父「だって…旅に出たと聞いて、それで」
親父は涙のせいでポツポツとしか話せなかった。俺も姉貴もどうしていいか分からなかった。姉貴が気をきかせて全員テーブルにつかせた。
ジジイ「親父、おかんさんと付き合ってたろ?どうなった?」
笑ってジジイはおかんの名前を出した。俺が4つの時に亡くなったおかん。いや母さんと言ってた…気がする。 - 325: 2016/11/26(土) 22:05:43.28 ID:FVaEeH7f
- 親父「おかんさんは…結婚出来ましたよ?10年少しに亡くなりましたけど」
ジジイは少し悲しい顔をした。ジジイは一言「そうか」とだけ。
親父「約20年ぶり?ですかね?」
ジジイ「お前いくつだ?」
親父「42です」
ジジイは親父の肩を叩いてまだ若いわと笑った。 - 326: 2016/11/26(土) 22:09:59.21 ID:FVaEeH7f
- 親父「その肩を叩くのも懐かしいです」
親父はやっと涙が止まった。姉貴がそこで切り出した。
姉貴「…こちらの方は?」
親父が言った。
親父「俺の大学の先生だ」
姉貴は意外という顔をしてジジイを見た。俺は親父がジジイの教え子という事実に驚いたがそれよりは嬉しかった。
親子2代で同じ師をもつという不思議な感覚。そのことに喜んでいた。 - 327: 2016/11/26(土) 22:13:28.16 ID:FVaEeH7f
- 親父「それで…俺よ」
俺「へ?」
親父「どこで知り合った?」
いきなり飛んできた矢に俺はドキドキしながら今までの経緯を説明した。時々ジジイが補足をしつつこの1年と少しの説明をした。
親父はそれを真摯に聞いてくれた。時々へえやほうなど相槌をうちながら。どこか俺の話を羨ましそうに。 - 328: 2016/11/26(土) 22:17:49.28 ID:FVaEeH7f
- 親父「…分かった」
姉貴はもう怒って無かった。それよりギターを聞きたそうだった。
親父「そうだ!ご飯、食べてって下さい!」
そうして初めてジジイと飯を食べ、家の風呂に入り、同じ部屋で寝た。姉貴はジジイが怪しい人間じゃないことが分かるとギターのリクエストをした。
姉貴「私ギターもしてたけど良くできなかったんだよね…」
姉貴「あれ弾きたかったんだよね、オアシスのワンダーウォール!」 - 329: 2016/11/26(土) 22:20:42.87 ID:FVaEeH7f
- ジジイは笑って俺を見た。
ジジイ「姉ちゃん、それは俺の世代じゃねえなあ。俺、弾けるか?」
俺「…うん、練習したから」
姉貴「え?あんたが?」
姉貴をギャフンと言わせたくて実は練習していたのだ。姉貴がこの曲が好きなのは知っていたから。
ジャラーン
初めてジジイと五十鈴以外にギターを聞かせた。リビング、台所には親父。二人に対してのライブだった。 - 330: 2016/11/26(土) 22:25:49.57 ID:FVaEeH7f
- 姉貴は出来るじゃん!と褒めてくれたし親父は頑張ったなと声をかけてくれた。それだけで俺は何万人からの拍手をうけたみたいな気分だった。
次の日からジジイはまた出ていった。親父は少しの間でもうちで住まないかと聞いたらしいがジジイが断ったという。
それからは普通だった。またジジイにギターを習いにいく。今度は親父に隠す必要は無くなった。時々姉貴もついてきた。
そして俺はバンドを組んだ。弓道部の友達二人とだ。主にドラムの奴のせいでジェフ・ベックをよくした。曲は好きだったがギターは凄く難しかった。 - 337: 2016/11/26(土) 23:58:53.66
- 親父がジジイの教え子だったなんて凄い偶然があるんだね
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