ノート

1: Horror master
僕には一つ下の、美樹という妹がいる。


そこそこ可愛くて頭も良いのだが、その表の顔とは別に、裏の顔を持っているやつだ。 幸い、僕の事をお兄ちゃんと慕ってくれるのだが、敵と判断したやつには怖い対応をする。 父はけっこう厳しくて、手こそ出さないが大声で怒鳴る。


たまに機嫌が悪いと、理不尽な理由で怒られたりするが、僕は気が弱いので反抗はしない。 しかし美樹は、父に見つからないように、父の歯ブラシで床を拭いたり、父の飲むお茶に唾を入れたりと陰湿な仕返しをする。 僕はそれを知っているが、父には言わないし、もちろん妹をとがめることはしない。 僕の出来ない憂さ晴らしを、代わりにやってくれているからだ。


Horror master
小さいころから、彼女は研究熱心だった。

「明日、天気にな~あれ!」と言って靴を飛ばし、表なら晴れ、裏なら雨、横ならくもりと、結果を毎日表に書き、次の日の天気と確認していた。

当たる確率はどうなのか知らないが、けっこう飽きずに続けていたので感心したものだった。

また、お菓子を置いてからどのくらいでアリが集まってくるかなど、かなりマニアックな研究もしていた。

中学生になると、透視能力を開発すると言って、裏返したトランプのマークや数字などを当てる実験をしていた。

彼女はけっこうデータをつけるのが好きなのか、必ず結果をノートに書いていた。 すると今度はタロットカードを買ってきて、占いをするようになった。


好きな男子のこととか、テストの問題まで予想して、かなり僕もお世話になった。 美樹はメガネこそしているが、それでもかわいいほうだと思う。

ニコニコしているので、友だちも多いようだが、ニコニコしている裏の顔は、僕以外はみんな知らない。 彼女には、同じクラスに気になる子がいた。


麗菜(れいな)という名前のその子は、髪が長くてお嬢様系のおとなしい女の子だ。 川口春奈に似ている感じで、けっこう男子からの人気があった。

自分のことをそこそこかわいいと自負している美樹は、彼女にライバル心を持っていた。
Horror master
ある日美樹は、彼女がバレンタインに手作りチョコで、同じクラスの藤田という男子に告白するらしいという情報を、友だちから聞いた。

実は美樹も、藤田のことが好きなのだった。


恋愛には奥手の美樹は、好きな男子にチョコをあげるなんてことはしたことがなかった。 ライバルに好きな男子をとられるかも知れないと焦った美樹は、夜に僕の部屋にやって来て一冊のノートを見せた。

そのノートの表紙には《予言ノート》と書いてあった。

「なにそれ?」と聞くと、そのノートに願い事を書いて、その予言を的中させるためのノートだと言う。

僕は、デスノートみたいだなと思った。

美樹が言うには、言葉には言霊があり、強く念じれば念じるほど、その通りになるのだという。 透視やタロットなどをやっていくうちに、霊感が強くなってきたと彼女は言うのだ。

そして、いつかこの予言ノートを試してみたいと思っていたのだが、怖くて出来なかったのだ。
Horror master
「こんなノート、使っていいのかな?」珍しく妹に頼られて気分が良くなった僕は「あやめたりしなければいいんじゃない?」と言った。

「うん、私も殺したりはしない」殺したりはしないって、上限はどこまで考えているのかは、怖くて聞けなかった。

その日から、美樹の《予言ノート》生活は始まった。 彼女のやり方はこうだ。


《麗菜はフラれる》という言葉を、1ページいっぱいに書く。

書きながら呪文のようにその言葉を唱える。

それを、バレンタインまでのあと一週間、毎日続けるのだった。

僕はときどきノートを見せてもらったが、ページいっぱいに隙間なく《麗菜はフラれる》という言葉が書かれていた。

美樹の一途な思いが叶えばいいなと思ったが、そんなことあり得るのかなという思いも半分あった。

そんな日々が一週間続き、ついに運命の朝がやってきた。


緊張した面持ちの美樹は、目を瞑りながら朝食のトーストをゆっくりと噛みしめていた。
Horror master
僕は緊張に耐え切れず、先に学校に行った。

授業が終わって下校時間となり、いよいよ運命の瞬間がやってきた。 麗菜は一人で校舎の影に立っていた。

それを遠くで、美樹と僕は見張っていた。


麗菜の友だちに言われて、藤田は麗菜のところにやってきた。

何か話しているようだが、遠すぎて言葉はわからない。

麗菜が手作りチョコを差し出すと、藤田は喜んで受け取っていた。

「これって、OKってことなのか?」

僕は隣の美樹に聞くが、美樹は黙っていた。

そして、そのまま美樹は走って家に帰った。


彼らは何も悪いことはしていないのだが、僕は、かわいい妹を悲しませるこの二人が憎かった。 家に帰ると、美樹は自分の部屋に閉じこもっていた。

僕は、かける言葉も見つからなかったので、何も声はかけなかった。 その後数日間、美樹はあまり笑わなくなってしまった。 ところが、事態は急変することになる。


ある日の夜、僕の部屋に美樹がやってきた。

「お兄ちゃん、ちょっといい?」

僕は宿題があったが、妹と久しぶりに話せるのが嬉しかった
Horror master
美樹は、例の《預言ノート》を見せた。


そこには、”mission complete(ミッション・コンプリート)”と書かれていた。


「ミッション・コンプリート(任務終了)!?」僕には意味が分からなかった。


願いは叶ったという意味なのだろうか?不思議に思う僕に、美樹は詳細を語ってくれた。

実は、あのバレンタインの手作りチョコを食べた藤田くんは、チョコが原因で食中毒になり入院したというのだ。

それが原因で大事なサッカーの試合にも出れず、退院後、麗菜に交際を断ったらしい。

そのショックのため、麗菜は今、登校拒否状態なのだ。

「ということは、願いが成就したということ!?」

そう尋ねる僕に、美樹は紙袋を差し出した。 その中には、木で作った二体の人形があった。


そして、頭の部分には、隠し撮りした藤田と麗菜の顔写真が貼られていた。

よく見ると、藤田の人形の腹の部分には、何度もコンパスの針を刺した痕があった。 美樹は、バレンタインの告白現場を見届けたあと、急いで家に帰り、この人形を完成させていたのだ。
Horror master
そして、再び《預言ノート》に《麗菜はフラれる》という言葉を書き続け、藤田人形の腹を刺し続けたのだ。 真っ暗な部屋にキャンドルを二つ灯し、ブツブツと念じるその光景を想像すると怖くなった。 その結果、藤田は食中毒を起こしたのだろう。


美樹はさらに、麗菜の写真の頭の部分に、針を刺し続けたという。

その努力の甲斐あって、見事に、”mission complete(ミッション・コンプリート)”させたのだ。 ニコニコと笑う美樹を見て、「こいつに恨まれたらお終いだ」と僕は思った。

「これからも仲良くしようね」

そう笑う美樹の言葉に、僕は頷くしかなかった。

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