bandicam 2017-09-02 13-18-30-575

Mystery master
つまがしんだ
交通事故だった

保育園に娘を迎えに行った先での出来事

その日、雨だった その日、妻は少し迎えが遅くなっていた
その日、娘はまちわびて門の前にいた
その日、路面は滑りやすかった

電話を受けてからの記憶はほとんどない

ただ、断片的な事だけ 布が被せられた妻、妻の前で動かない娘、 泣きながら謝る男…

ほかに医師やら警察やらがいたような気もするが どう応対していたのかわからない 雨音だけが耳に残っていた

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彼女はとても愛されていたようで、たくさんの弔問・参列をしていただいた
みんなが泣いていて、みんなが悲しみを浮かべていて、 みんなが別れを惜しむ中、 わたしはただただその光景を見ていた

妻の葬儀がおわる

「娘ちゃんの事も男の事も心配だ、自分たちと一緒に暮らそう」

両親からの言葉だった
父さんたちは、物事を押し付けるタイプではない

それなのに同居を向こうから持ちかけられたという事は、 自身の自覚こそなかったが、わたしはかなり参っていたのだろう
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…すこし、考えさせてほしい そう答えようとした時、服の裾をつかまれた
「……」

言葉こそないが、娘から拒絶の意志を感じる

しばらくふたりで様子をみさせてもらう それがわたしがだした結論だった
明らかなわたしたちのわがままであるのだが父母義父母ともども いつでも頼ってきていいんだよと言葉を返してくれた

頭があがらなかった
時間に余裕ができ、妻の荷物を整理し始めるが手が進まない

物を、思い出を大事にする彼女の持ち物はわたしにとってにが、おもい

その日は雨が降っていた
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妻がいなくなって、幾年

最近ようやく素直に泣けるようになったが 彼女がいなくなった事には未だなれていない

娘に気づかれないよう、心配させないよう隠して生活をする
不器用な男手一つの家事、育児などたかが知れているものだが 後者の方は娘があっという間に手から離れてしまい、フォローをしてくれている

年頃の娘に人並みの生活をおくらせるために、娘の手を借りる
学校の友人と遊ぶ時間を奪ってしまっているのでは そんな事を考えていると

「大丈夫、友達との時間はちゃんととってるし勉強もバッチリやってるよ」

いやはや、おみそれいたしました
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更に幾年が過ぎる

器量気立てが良かった妻に似てきた娘は、やはり学校でモテるらしい
毎日夕食を一緒に食べるときに、一日の事を話してくれるのだが 聞いているだけで周りからの好意が伝わってくる

だが不思議なことに娘自身、まだそういったものに関心がないのが伝わるのか 想いを伝えにきた者はいないらしい

しかし、いつか娘も彼氏を作り、嫁にいってしまうのだ

世の父親の悩みを噛みしめつつ これも一つの幸せのかたちなのだろう等とぼんやりと思いつつ、明日の事を話す

明日は妻がしんだ日だ
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妻の墓を訪れる
毎月の様子とは違い、今日は先客がいるのは命日だからだろう
丁度入れ違いだったらしく軽く礼をして、通り過ぎる 不意に後ろを見ると、先客の男は深く礼をしたままだった

あぁ、あの時の… 彼が顔を上げたとき、改めてわたしは礼をすると、男はなんとも言えぬ表情で去っていく

彼もあそこで人生が狂った一人なのだ
妻がしんだ時と、先程の邂逅 それだけで彼は一生十字架を背負って生きていくのだろうという実感があった

「お父さん」 娘が呼んでいる

考え事は胸中へ隠し、わたしは妻と娘のもとへ向かった
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臭い、不潔、近くによらないで
休憩中に同僚たちの話を聞いていると 自分の娘は他の娘さんたちと、同じ生き物ではないのではないかと感じる

同僚曰く男ちゃんとこは、娘じゃなくて男ちゃん自身が俺たちと違うんだとか何とか 別段変わったことはしていないと思うのだが、そう答えると長くなるので、適当に受け流す

自分が違うにしても違わないにしても、娘から嫌われていないという事実はありがたい

飲み干したコーヒーを捨て、たった一人の家族を想い仕事へ戻る
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会社の忘年会

普段の飲み程度なら断れるのだが、年に限りのあるものには出ないわけにはいかない 前もって娘には言ってあるが、帰宅を寝ずに待っていたりするので遅くはなれない

酒も程々に一次会でお先をしようとすると、酔いつぶれた部下の女の子を押し付けられる

帰らないといけないし、男が女を簡単に送るものではないだろうと抗議するのだが 上司や部下の友人からも、かまわないから送ってやってくれと言われる

何やら含みを感じるが、酔っ払い相手では暖簾に何とやらだ
これ以上時間をとられるのもマズイので、早々に諦め送ることに決める

彼女のアパートは会場からかなり近かった 目の先というのはこういう事をいうのだろう ならば、他の者が送ってもよかったのでは…

そう思いつつカギを開けてベッドへ運ぶ
このまま帰りたくはあったものの、一人にするのもマズイ 目を覚ますまで娘にメールで事情を説明しつつ待つことにした

もぞもぞと動く音が聞こえる
そろそろ起きる頃合いか 時計を見つつ容体を確認しようと振り返る

「男さん…」 彼女はベッドからのり出していた
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どうやらわたしははめられたらしい
上司も同僚も再婚はしないのか?

いい子を紹介してやろうか? 等とよく言ってくるが、冗談だと思っていたのだがね

「男さん、わたし…」

この子もこの子だ
わたしの事をよく慕ってくれているとは思っていたが まさか恋慕の情まであったとは この状況下に陥る原因となった自分の鈍さが恨めしい

「まだ、奥さんの事を思っていることは知っています」

「娘さんを大事にしている事も知っています」

「それでも、わたしは――」

「すまない」

たった一言 断りの言葉を残し、わたしは部屋から立ち去る
わたしの想い人は昔も今も、そしてこれからも妻一人だから
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大晦日
今になって、忘年会の事が頭にのしかかる

うちの部署のほぼ全員が先日の計画にかんでいたらしい という事も一緒に聞いた

いい子だったと思う
魅力的な子であったとも思う

でも拒んだ 拒んだ結果が、今だ わたしはどうすればよかったのだろうか
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平穏な日々とは破られる為にある

「彼氏ができたの」


聞きたくなかった言葉だ
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娘が彼氏を連れてきた
明るいというか、少し軽い感じもするが 今時の子ならば、こういうものなのかもしれない

想像していたよりモヤモヤする事もなく 初めての彼氏訪問は終了した
娘に彼のどういったところが好きなんだと聞いてみる

「なんとなくお父さんに似てるところ」

わたしは傍から見ると、あのような感じなのか ちょっとショックだ…
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彼氏との交際は順調に進んでいるようだ 性的な事はまだしていないとも言っていた いや、わたしに言われても困る

喉もとまではでてくるのがだ、 言葉にできず何度のみこんだ
こういう時、母親がいればまた違うのだろうが…

最近また、妻の写真を眺める事が増えた
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時が過ぎるのは早いもので 明日には、娘は嫁へ行ってしまう
既に相手の彼とは長い付き合いなのだから 今更心配することもない

精々が式の最中に無様な泣き顔をさらすくらいだ
妻の写真と向かい合いチビチビと酒を飲む 思えば君がいなくなってから無我夢中だった

慣れない家事に育児、仕事だってある 人と出会って、別れて、なくして、一緒になって…

こんな自分でも娘の巣立ちをきちんと迎えられたのは ひとえに君が支えてくれたからだろう
まだ、会いにはいけないけれど もう少しだけ、もう少しだけ待っていておくれ
Mystery master
「お父さん」

娘の声に思考をとめ、顔を向ける

「明日は式だっていうのに、お酒なんて飲んでいいの?」

「大丈夫、響かない程度にするよ」

「お前こそ、まだ起きていていいのか?明日は早いんだろう」

「大丈夫、響かない程度にしますー」

そう言うと娘は横に座りグラスに酒をついでいく

「独身の娘からの最期のお酌です」

「有り難くのんでよね」

苦笑しつつ、グラスを傾ける
もう娘とこんな夜を過ごすこともないのだ そう感慨にふけりつつ、涙で少し味の変わった一杯を噛みしめた
Mystery master
目覚ましの音で目を覚ます どうやらあのまま眠っていたらしい
娘が用意してくれたであろう、アラームを止め布団をのける

時間を見ると少し早いくらいだが ある程度の余裕をもたせてくれたのだろう しかし、体がおもい… あまり飲んだつもりはなかったが体は若くないという事か

痛む腰をさすりつつ起きあがり いつの間にか倒れてしまていた妻の写真をおこす

「おはよう」 そう言って身支度にとりかかった
Mystery master
結婚式にはたくさんの友人がきていた

みんなが笑って、みんなが騒いで、 みんなが門出を祝福する中、 わたしはただただ泣いていた 何故か妻の葬儀の事を思い出す

かたちは違えど、あの時と同じようにみなに愛されている そう感じたいい式だった
Mystery master
娘に赤ん坊が出来た 
ついにわたしもおじいちゃんになるわけだ

自分がおばあちゃんになると知ったら、妻はどんな反応をするだろうか
娘からの報告をききつつ、ありえない未来を夢想する

おめでたい、ああおめでたい

しかし、人生は順風満帆にはいかない わたしはそれを忘れていた
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旦那の遊びの発覚
婚前交渉はしない娘とは別に、体の付き合いのある女性がいた

相手の女性とは遊び感覚だったようなのだが 娘の妊娠後付き合いを再開した
しかも向こうでも子供ができてしまったとのことだった

旦那は相手とは別れると言うが 娘の答えは“No”だった 子供に罪はないし、自分の方が旦那と別れる

慰謝料もいらない
代わりに、二度と自分たちの前に姿を現さない事

わたしが事の顛末を聞いたのは、全てが終わった後だった
今日ほど自分の愚鈍さを呪ったこともない
Mystery master
わたしの心労とはよそに 孫はすくすくと育ち、娘は日々を幸せそうに過ごしている 無理をしているようでもなく、割り切っているとでもいう感じだろうか

思っていた以上にわたしの娘は強い子だったようだ

「お父さん、ずっと一緒だからね」

流石に今の娘の頭に再婚の文字はないようだ

だが、どのような未来になろうとも せめてこれ以上この子たちには何も起こらない事を 行く先に幸多からん事を祈る


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