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557: 2015/11/18(水) 23:05:52.81 ID:anNfxHXg.net - でも、俺は夏が終わったら東京に戻らないといけない。
ここでこうしていられるのも、あと少しだけだった。
このまったく知らなかったど田舎の世界で、
のびのびと笑って、ぶどうなんか食べて、
奈央と一緒に過ごせるのも、奈央とバレーができるのも、あと少しだった。
これが終わったら、俺はどうなるんだろう?
俺にはまだそれが分からなかった。
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おじさん「お、どこに行くで」
俺「ちょっと、花火を近くで見ようと思ってw」
そうするとおじさんは酔っているのか、
「奈央が襲われないように守ってやってくれよ!あ、1君も何もすんなよ!」
と声をあげて笑っていた。
隣にいたおじいちゃんは神妙な面持ちで「気をつけて行くだぞ」と言ってくれた。
俺「奈央、早く早く!」
俺はそう言って、全力で自転車をこぎだした。
奈央が後ろから「待って!」と言って追いかけてきた。
もう何度か通った、あの下り坂を全速力で下っていく。
夜風が体に当たって、すごいスピードで街灯が過っていった。
俺は、奈央を花火大会に連れ去る漫画の主人公にでもなったつもりだった。
それは近づく花火の音と呼応して、勢いを増していった。
坂道を全速力で下り終えると、平らな道へ出た。
横にはあの河が流れていて、
遠くの橋の上には屋台の灯りがいくつもともっていた。
大勢の人が灯りの中を歩いているようだ。
俺「どうした?」
奈央「もしかしたら、会っちゃうかもしれないから…」
俺は少し黙って考えた。
俺「奈央がふられた人に…か」
奈央はそう言って、下を向いてしまった。
俺は悩んだ。このままだと、奈央を連れ出してきた意味がない。
それどころか、奈央をもっと傷つけてしまうだけかもしれない。
ただ、奈央は花火大会に来たかったんだ。
奈央のあの表情を変えたかった。
でも、俺には無理だったのか?
俺「河川敷のひまわり畑に行こう」
奈央「え?」
俺「河川敷の横に、ひまわりが咲いてるの見たんだよ」
俺「あそこから見ようぜ、花火」
俺「ひまわり、好きなんだろ」
俺「言ってたじゃん、もうけっこー前だけど」
奈央「そうだっけ」
そう言うと、奈央は笑って頷いた。
奈央「あそこなら人も少ないだろうし、いいけど」
それを聞いて俺は「よっしゃ」と言って自然と笑顔になった。
そう言うと、奈央は「うん」と頷いて俺の後をついてきた。
道の脇に2台の自転車を置いて、河川敷の横のひまわり畑に向かって下りていく。
その間も、頭上には何発もの花火が大きな音を立てて打ち上がっていた。
花火が打ち上がるたびに、奈央が「わっ」と言って見上げるので、
足を踏み外さないか、俺は気が気じゃなかった。
そしてしばらく歩くと、小さなひまわり畑にたどり着いた。
それは不思議な光景だった。
元の色があの明るい黄色だとは、到底思えなかった。
俺「ここからも、よく見えるじゃんか」
そう言って横の奈央を見たが、黙ってただ花火を見つめていた。
花火が無い時はとても視界が暗くなった。
そう思うとまた花火が何発も打ち上がり、
横の奈央とひまわりを鮮やかに映し出した。
その景色をぼーっと眺めていると、奈央が不意にひまわり畑の中に駆け出した。
俺「ちょっと、どこ行くんだよ」
奈央「どこにも行かないよ」
ひまわり畑の中に佇んでいる奈央を見つけて、安心する。
俺「暗いし、危ないぞ」
奈央「ん、分かってる」
奈央「近くで見れて良かったな」
俺「そっか、それなら良かった」
ドン、ドン、パラララ…
その間にも、頭上ではいくつもの花火が咲いて散っていった。
俺「何」
花火のせいもあってか、会話のやりとりが簡潔になる。
奈央「恋なんて、花火みたいなもんだよね」
俺「え、なんだそれ」
奈央「私の気持ちも、散って消えていったから」
ちょっと茶化したい気持ちも湧いたが、
奈央が真剣に話しているのが分かったので、
俺も真剣に答えることにした。
奈央「ううん…全然ちがう」
奈央「あれだけ綺麗に咲いてれば…散らなかったかもね」
奈央はそう言うと、かぶっていたストローハットを目深にかぶり直した。
そんな奈央を、頭上の大きな花火が照らした。
奈央「…なに」
奈央はストローハットで目元を隠したまま答えた。
俺「散っちゃったなら、いいじゃんか。綺麗さっぱり、切り替えられる」
俺「ずーっと心に残ってるほうが大変だぞ」
俺はまるで自分に語りかけるように、奈央に言った。
奈央「なに、それ」
俺の言葉を聞いて、奈央が笑って顔を上げてくれた。
俺「ひまわりは、消えないからな」
奈央「でも、夏が終わったら枯れるよ」
俺「枯れないようにすればいいさ」
奈央は「いみわかんないw」と文句を言っていたが、笑顔が戻ってきて、
俺は心が温かくなるような、安心するような、よく分からない気持ちになった。
奈央は「なにそれ」と言いたげな目でこちらを見たが、すぐに気づいて、
「分かってる、絶対勝つんだからね」と得意げな表情を浮かべた。
さっきまで帽子で顔を隠していたくせに、と笑ってしまいそうになったが、
奈央の様子が元気になってきて、俺はとても嬉しくなった。
奈央「うん、そうだね」
俺「悔いがないように、最後まで頑張ってな」
奈央「頑張るよ、絶対。最後の最後まで」
頭上で、大きな金色のスターマインが夜空のカーテンのように広がっていた。
奈央の花火が、部活の集大成が、綺麗に咲きますように―
俺はそんなことを願っていた。
元気に部活をやっていた。
吹っ切れたかのように、あの笑顔で、
大声を上げてボールを追いかけていた。
奈央の調子が戻ると、自然とチーム全体の調子も高まり、
俺がコーチに来てから一番の活気に満ちていた。
練習中、千景ちゃんに「奈央先輩、復活しましたね」と笑われた。
俺「うーん…ちょっとそれは、秘密かな」
俺が笑みを含んでそう言うと、千景ちゃんは意味深に、
「1さんって、本当にいい人ですよね」と楽しそうに笑顔を浮かべていた。
それが何を意味しているか、少し気になったけど、すぐにどうでもよくなった。
最高の調子になったチームがある。
後は明日の夏季大会で、この目で見るものが全てなんだろう。
そんな風に、感じていたからだ。
「みんな、今までありがとう。明日は最後まで、楽しく笑顔で頑張ろうね」と語った。
澄んだ瞳に、感謝の満ちた表情だった。
高校の3年間の部活、それはきっと誰にとってもかけがえのないものだ。
奈央にとってのこの3年間も、きっと何物にも代えがたい、
楽しくて、大切な、長いようで、あっという間の3年間だったんだろう。
そう考えると、なんだか少しだけ胸が温かくなった。
そして俺自身も、
自分のやり遂げられなかった3年間を重ねあわせていたのだと、強く思う。
そして体育館を出る時、奈央は俺に向かって
「私、気合入れてくるからね」と言って家の鍵を手渡した。
それはつまり、「先に家に帰ってて」といういつものやりとりだったのだが、
気合を入れるってどういうことだ?と言葉の意味までは汲み取れなかった。
肩甲骨まではあったであろう長い髪を、
さっぱりとショートヘアにしていたのだ。
居間でばったり奈央と顔を合わせて、
その変貌ぶりに俺の心臓は大きな音を立てた。
奈央「ただいま」
俺「おお…おかえり」
何も言わないというのもアレだなと思い、
俺は恥ずかしくて目が回りそうだったが、勇気を出した。
俺「すごく短くしたんだね。似合ってるよ」
そう言うと奈央は「ふっ」と吹き出して笑い、
「ありがとう」と言ってくれた。
奈央「そんな真面目に言われると、変な感じだね」
奈央はそう言って自分の髪を触り、はにかむような笑みをこぼしていた。
「あら!そんなに切ったの!素敵じゃない」と言われていて、
奈央は上機嫌なようでニコニコしていた。
正直、奈央がどんな心境で髪を切ったのかは分からない。
だけど、髪を切った奈央の表情は「何かを決意した」ものに見えた。
白い首筋が見えるようになってスッキリとした奈央の顔からは、
強い気持ちが溢れ出していた。
会場は隣町の高校で、そこまでは自転車で向かう。
一度自分たちの高校に集合した際、奈央がチームメイト全員に囲まれて、
「奈央先輩どうしたんですか!」
「めっちゃ可愛いじゃーん!短いの似合うねー!」
「気合入れてきたねー」
と髪型に関しての反応がマシンガンのように飛び交っていた。
奈央の3年間の想いが結実するには、うってつけの日だった。
視界が狭くなるような真っ白な日光に、街中が照らされていて、
何もかもが落ち着かないように見えた。
夏の終わりだったからだろうか。
俺の胸も、朝から高く波打っていた。
何もかもが落ち着かないように見えた。
なんだこの描写は
圧倒されるな
表現がすごいよね
惹き付けられる…
円陣なんか組んで、奈央の声が高らかに響いた。
「今日は、思いっきりやって、最後まで楽しもう!」
「おーーー!」部員全員のかけ声が青空の中に吸い込まれていった。
その中に、俺もいた。
眩しいはずの太陽を何故か見上げてしまって、
「すげえ光だな」なんて思った。
でも、その光の当たる場所に、俺も立っていた。
奈央たちと一緒に。
俺も、何度も感じてきた雰囲気だ。
朝早く、体中にエネルギーとやる気が漲った状態で行う対人。
不思議な高揚感に包まれて、何にでもなれるんじゃないか、とさえ思える。
ふと、奈央がボールを抱えたままコートの脇に立ち尽くしていた。
カットしてすっかり短くなった髪の毛を、さらに結んでいた。
奈央「ううん……」
奈央はそう言って、その場を動こうとしない。
俺「緊張、してるのか」
奈央「うん…」
奈央はこわばった表情で頷いた。
奈央「え…?」
俺「今何が聞こえる?」
俺の質問が唐突だったのか、奈央は眉根を寄せて首を傾げた。
俺「シューズのこすれる音、ボールを弾く音、スパイクから着地する振動、かけ声…」
俺「この全部が、バレーだよな」
奈央は不思議そうに「そうだね」とこちらを見た。
奈央「うん…まあ」
俺「この中にいるだけで、ワクワクしてくる」
そう言っている間も、奈央のチームの後輩たちが
「オッケー!!」と笑顔でかけ声を上げていた。
俺「色々考えるな。この雰囲気を、楽しんでこい」
俺「今日で最後なんだ」
俺がそう言うと、奈央はしばらく体育館の中を見つめていた。
まるで大切な何かを優しく見守るような、そんな表情だった。
バレーをやるはずだった三年間。
途中で途切れた俺の夢。
俺のしたかったこと、見たかったこと、それは――
抽選の結果、奈央の高校がシードとなり、初戦は2回戦となった。
「一回勝てばそのまま決勝にいける」
部員全員が色めき立っていて、不穏な雰囲気があった。
加えて、俺もコーチとしてコートの横で指示をするのは初めてで、
うまく采配をとることができなかった。
結果、初戦は無残にも惨敗してしまった。
奈央も緊張からか上手く動けず、
結果、チーム全体の調子が下向いてしまい、
全く良いところがなかった。
どうしたものか…と考えていた時、澄んだ声が響いた。
奈央「まだ次があるよ」
奈央の輝いた表情は、この湿った空気を吹き飛ばした。
奈央「3位決定戦があるから」
奈央「最後まで頑張って、そこで勝とうよ」
奈央「まだ、終わりじゃないんだから」
負けてしまい、心底落ち込んでるかと思った奈央が、
一際煌めく表情で、部員たちを鼓舞していた。
「そうだよね、まだ次があるから!」
「最後まで諦めないで頑張ろ!」
奈央の気持ちが、チームを本来の「あの雰囲気」に戻していた。
俺はその光景が嬉しくて、黙って眺めていた。
奈央、えらいぞ。
お前の頑張り、バレーを想う気持ち、それは絶対に返ってくる。
そんな事を思いながら。
奈央が一人で空を見つめたまま立ち尽くしていた。
昼下がりの、強い光を帯びた空だった。
俺「奈央、何してんだ」
俺が声をかけると奈央は笑みを浮かべてこちらを見た。
風が吹いて、奈央の短くなった前髪を揺らした。
俺「奈央?」
奈央はそれだけ言い残し、そのまま体育館へと戻って行った。
その奈央の姿が印象的で、俺はしばらくその場から動けなかった。
奈央の澄み渡ったその表情は、俺の胸を強くとらえたのだった。
昼過ぎの良い時間帯、3位決定戦が始まった。
初戦と違って、奈央もみんなも落ち着いているようだった。
俺もドキドキはしていたが、これはすぐに「期待」の高鳴りだなと悟った。
そして奈央の3年間の全てが、この一瞬に詰まっていた。
泣いても笑っても、もう最後なのだから。
「ピーーー」と主審の笛の音が体育館に響いて、
両校の選手がネットに近寄る。
俺もコート脇の監督席から、控えの選手とその様子を眺めていた。
手を叩いて、「よっしゃいこう!!」と声をあげた。
コートの中で千景も思い切り声を上げ、エンジンがかかった。
俺は頷いて、「いけ」と声をかけた。
奈央は真剣な眼差しで俺を見つめて、深く頷いた。
試合は3セットマッチで、先に2セットとった方の勝ちだ。
一発目のサーブカット、千景が良いキャッチをし、
セッターの子の元へ最高のレシーブが返った。
チーム全員が「奈央!!」と叫んだ。
俺も身体の底から「奈央、いけぇ!」と叫んだ。
高く跳んで打ち込んだ奈央のスパイクは、
ブロックの間をすり抜け、相手コートに叩きつけられた。
瞬間、ワッ!と歓声が起こり、体育館中が沸き立つ。
体中の毛穴が開くような、そんな興奮の一瞬。
房江も悦子も和子も克枝も負けるな!
思わず大きなガッツポーズをしてしまう。
それに続いて、控えの子達も「オッケー!」と言って立ち上がる。
コートの中を走り回る奈央は満面の笑顔だ。
千景がベンチの子たちに向かって嬉しそうに手を振った。
奈央たちのチームの良さがふんだんに出ていた。
これなら、きっといける……
1セットはスムーズに取ることができた。
戻ってきたレギュラー陣を全員で鼓舞する。
俺「いいよ!この調子だ!!」
俺「楽しんでいこうな!」
円陣を組む部員全員に向かって渾身のかけ声をかける。
「はい!」ときらきら輝く表情が返ってくる。
俺が「いこうか!」と言うと
奈央が「2セット目もこの調子でいくよ!」と叫んだ。
「おー!!」というかけ声が力強く響いて、
俺も「おし」と拳を強く握った。
千景のレシーブミスをきっかけに、徐々に調子を崩してしまった。
全員の奮闘も虚しく、2セットは僅差で落としてしまった。
しかし、みんなの様子は一つ前の試合とは違った。
奈央「サーブカットがちょっと乱れてきてるね」
千景「そうですね…私のミスがちょっと…」
奈央「ううん、大丈夫。切り替えていこう!」
「はい!」
そうなんだ。
バレーは楽しい。そういうものなんだ……
きっと、ずっと、そうで…
そんな事を思って感極まり、しばらく黙って見守っていたが、
すぐに声をかけた。
俺「カットの時は、姿勢を低くして、膝は足首の前、だよ」
「はい!」
俺「大丈夫、決して流れは悪く無い」
俺「みんな、すげー頑張ってるもんな?」
「はい!」
俺「みんな、楽しんでいこう!」
俺がそう言うと、全員の「はい!」という力強い声が響いた。
最終セットが始まる直前、奈央が俺の前に立っていた。
ぐっと拳を握って、小さなガッツポースを作ってみせた。
奈央「楽しんでくる」
にこっと笑って、そのままコートの中へと駆けていった。
実際に吹いたかは分からないし、「吹き始めた」という方が、
正しかったのかもしれない。
ただ、本当に俺の心の中に熱い風が通り抜けた気がした。
最終セットは大接戦だった。
15点マッチの短い試合が、あっという間に15-15となった。
ここまで来ると、体育館の中には大勢のギャラリーがいて、
両校の応援も鬼気迫るものとなる。
15-16のスコアとなった。
あと1点とられたら―
チームの雰囲気が重くなって、大きなプレッシャーがかかる。
エースの奈央は後衛にいた。
全員が気を落としたその瞬間だった。
奈央「大丈夫だよ!諦めないでいこう!!」
奈央の今日一番のかけ声が、コート上でこだました。
千景もそれに気づいて、「一本一本!落ち着いてこー!」
と声を上げた。
笛が鳴って、相手チームの痛烈なフローターサーブが飛んでくる。
千景が思い切りフライングし、コートに転がりこんでキャッチした。
場内に「おお!」とどよめきが湧いて、
チーム全員が「あがったー!!」と声を枯らして叫んだ。
そのフェイントが相手の虚を突き、1点返すことに成功した。
「うわあああ!!」と歓声が湧いて、
流れが一気にこちらへと戻ってきた。
俺「よっしゃぁ!ナイスファイト!!」
16-16だ。
1点返したことで、後衛にいた奈央が前衛へと戻ってきた。
俺「よっしゃ、もっかいこっから!落ち着いていこう!」
俺はコート上に立つ6人に、懸命に声を送り続けた。
しかしトスが乱れて、相手のスパイクミスとなった。
悲鳴にも似た歓声が湧き上がって、
奈央たちはコートの中で飛び跳ねて喜んだ。
ベンチにいた俺も、控えの子も、「おっしゃぁ!」と言って叫んでしまった。
17-16。
あと、1点だ。
あと1点で、全てが…
綺麗にレシーブが上がった。
強いスパイクが返ってくる。
しかし千景が上手くカバーにまわり、
運命的とも言える綺麗なレシーブがセッターの元へと上がった。
奈央「レフトォ!」
レフトでは、奈央が待っている。
体育館の中にいる全員が奈央を見ていたかもしれない。
奈央の待つレフトに、綺麗なトスが上がった。
心臓が、バクリと大きな音を立てた。
体育館じゅうの熱視線と光を浴びた奈央が、高く飛んだ。
まるでストップモーションのように、コマ送りで時間が進んだ。
奈央が打ったスパイクは、
相手コートに叩きつけられた。
その瞬間、全てが爆発したかのように、
「わっ!!」と歓声が巻き起こった。
ピィ、と笛高らかにが鳴って、奈央たちが勝利したことを告げた。
奈央はコートの中で涙目になり、まるで真夏の太陽のように、
溢れんばかりの笑顔をこぼしていた。
その太陽のような笑顔が、俺の心を照らした。
俺は、はっきりと気づいてしまったのだ。
この一週間、どれだけ楽しくて、
今この瞬間、自分がどんな想いを抱いているか。
夢が、できた。
奈央の笑顔が、俺の夢への道を明るく照らした。
奈央は、もうぼろぼろと泣いてしまっていた。
奈央「うぇぇ…やったぁ…」
「先輩…」
奈央が泣くのにつられて、他の部員もどんどん泣き始めている。
俺まで、涙目になってしまった。
俺「みんな、本当によくやったよ」
目を真っ赤にしたみんなが、俺の方を見ていた。
俺「特に、3年生」
俺「今日の試合は…いや、バレーは楽しかった?」
俺がそう言うと、3年生たちは仕切りに目をこすって泣き始めた。
俺「バレーが好きだったら、これからも続けてね」
そう言うと、
「はい!!」という力強い返事がかえってきた。
その後、沢山の仲間や後輩に囲まれて泣き笑いする奈央の姿を見て、
泣きそうになるくらい心の底から温かいものが湧き上がった。
試合後の興奮や喧騒がおさまるまでは、時間がかかりそうだった。
みんなも、奈央も、本当によく頑張ったんだ。
俺はそんな事を思って体育館の天井を見た。
一人だったら、この体育館の天井は高すぎる。
でも、誰かと一緒だったら…この天井にだって届くかもしれないな、
なんて思って、笑ってしまいそうだった。
バレーを続ける方法は、何も一つじゃない。
いつの日にかも思ったが、誰だって諦めなければ、
輝くことができる。
きっと、そうなんだ。
抜けるような大きな青空で、
まるで今の俺の気持ちを反射しているかのようだった。
眩しい。とにかく眩しいが、俺は見つめ続けていた。
奈央「何やってんの、こんなとこで」
目を赤くした奈央が、俺の隣に座ってきた。
奈央「うん。どうせまた後で話すしね」
俺「そっか」
風が吹き抜ける。熱気の篭った、夏の風だ。
横を見ると、奈央も目を細めて空を眺めていた。
短くなった髪型で、白い首筋が太陽光を反射した。
奈央「どーしたの」
俺「俺さ、夢を見つけたんだ」
俺がそう言うと、奈央はこちらを見つめた。
太陽の光を映しこんだ、澄んだ瞳だった。
俺「高校の先生になって、バレー部の顧問になる」
俺「それで、一生バレーを続けるんだよ」
俺がそう言うと、
奈央は「本当?」と言って笑顔を見せた。
俺「今度は、絶対」
俺「これは、俺の夢だから」
奈央は「ふふ」と吹き出し、満面の笑顔で
「頑張ってよね」と言った。
そんな風に笑う奈央を見て、俺の胸が熱くなった。
奈央「バレーも、夢も、まだ見つからないよ…」
瞬間、俺の奈央への気持ちが溢れだした。
俺は、横に置かれていた奈央の手を握った。
奈央「え…?な、何…?」
俺「奈央、今まで本当にありがとう」
俺「奈央に会えたから、夢が見つかった」
奈央「え、そんな…別に私は何も…」
俺「ううん、奈央がいなかったら、俺はずっと前のままだった」
俺は奈央の手を強く握りしめた。
俺「奈央、東京で待ってるから」
俺「一緒に、東京の大学に行こう」
俺は嬉しくて、「うわ、やった!」と言ってしまった。
空はよく晴れていた。
その青さはどこまでもどこまでも広がっているようだった。
夢の始まりの日、それは一夏の出会いだった。
そんな俺の話でした。
ということで、この話はここでおしまいです。
1ヶ月弱の間、付き合ってくれた人、ありがとう。
いい話だったよ…
完走してくれてありがとう♪
もしかしてだけど、ゲーセンの作者さんでは無いよね?
なので、物語として楽しんでもらえたらな、と思います。
ここまで読んでくれた人、ありがとうございました。
やっぱりw
いつも素敵なお話ありがとですっ
お疲れさまでした!
一貫して本当に透明な物語で、
すばるあたりの新人賞作品だって言われても疑わないレベル。
ありがとな
みんなありがとう。
あー早く夏にならないかなー
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