bandicam 2017-07-15 12-05-31-199

1: 2017/4/01 00:02 master
残る話も、あと僅かだ。

今回の話は先生の出番が少ない。

けれど、教訓として聞いてほしいと思う。

海とか山とか、とにかくどこでも。 落ちているからって、何でもかんでも物を拾うのは止した方がいい。 余計な「モノ」まで拾いかねない。
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家に帰ってから、私の耳が何だか変だった。

耳鳴りというか。 時折、じりじりとノイズのような響きが耳の奥で鳴っていた。 爪'ー`)「よう」

('、`*川「ただいま」

居間のソファに座っていた弟は、私に気付くと手を振った。 私も手を振り返し、隣に座る。 弟は翌日から2学期が始まるということで、何となく気怠そうだった。

じりじり。 何秒か耳鳴りがして、何秒か静かになって、また耳鳴りが何秒か。

私は、弟の右手に小さな袋があるのに気付いた。
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('、`*川「何それ」

爪'ー`)「先輩からもらった。彼女のために買ったけど、気に入ってもらえなかったって」

弟が袋の中から小さな箱を取り出す。 開けてみると、中身は指輪だった。 透き通るような水色の石。 多分、アクアマリン。

いる? と訊かれたので、首を横に振った。

女性ものの指輪で、弟は扱いに困っているようだった。

('、`*川「……先輩に返した方がいいと思うよ」


それだけ言って、私は腰を上げた。

第十二夜『海の夢』
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その夜、夢を見た。 真夜中の海辺に私が横たわっていて、その傍らに女性が座っている夢だった。 女性は私を見下ろしているのだけど、顔が分からない。 影で覆われているかのように、顔や体が黒い。 寒いのか、彼女はふるふると震えていた。
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('、`*川「……」

何だかすっきりしない目覚めだった。 耳鳴りはまだ聞こえる。 1階に下りると、制服姿の弟が居間の中をうろうろしていた。

('、`*川「何してんの?」

爪'-`)「昨日の指輪が見付かんねえんだよ。 欲しいって言う奴いたから、持っていきてえんだけど……」

弟の部屋にも居間にも見当たらないのだという。

('、`*川「箱ごとなくなったの?」

爪'-`)「いや、箱はあるけど指輪が……」

そろそろ行かないと遅刻するよ、と母が言うと、弟は溜め息をついて居間を出ていった。 朝食をとって家を後にすると、耳鳴りは収まった
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爪;'ー`)「なあ、指輪見なかったか?」

バイトから帰ると、おかえりの挨拶も無しに訊ねられた。 困りきった様子の弟に、嫌な予感を覚える。

('、`;川「どうしたのよ」

爪;'ー`)「……貞子に、変なもの持ってないかって言われた」

('、`;川「あー……」

貞子ちゃんに言われれば、そりゃあ不安にもなるだろう。

彼女いわく、弟に何かが憑いているわけではないけれど、不吉な気配がしたらしい。 私と兄も手伝って家中を探したが、指輪は見付からなかった。 耳鳴りは、帰宅してから再開していた。
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その日の夜も夢を見た。 やっぱり私が海辺に横になり、隣に女性が座っている夢。 私も彼女も口を開かない。 私は仰向けになったまま夜空を見上げる。 視界の端にいる女性は、震えている。
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J( 'ー`)し「何だか、海の匂いがするわね」

朝、母が首を傾げてそう言った。 家の中が何となく磯臭く感じる、と母は呟く。


私には感じられなかった。 けれど、原因は見当がついている。

('、`*川「フォックスは?」

J( 'ー`)し「探し物してたけど、さっき学校に行ったわよ」

弟は今朝も指輪を見付けられなかったようだ。 私の頭の中には、ぼんやりと、ある想像が広がっていた。 夢の女性は指輪の持ち主なのではないだろうか。
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爪;'ー`)「あの指輪、海で拾ったんだってよ」

弟はぐったりとソファに凭れ、言った。 指輪を寄越した先輩を問い詰めたところ、先輩は正直に吐いたらしい。 海に行ったときに、岩と岩に挟まるようにして指輪が落ちているのを見付けたのだという。


交番などに届け出るのも面倒だったし、捨てるのは勿体ない気がしたので 自宅にあったケースに入れて、弟に渡したそうだ。

海で拾ったなんて知っていたら、弟は受け取らなかっただろう。 間違いなく誰かのものだし、それに、そういう場所での拾い物には注意するべきだと 貞子ちゃんから散々言われているから。

爪;'ー`)「あれ、ヤバいんじゃねえかな」

('、`;川「……そうね」

明日の放課後、貞子ちゃんに探し物を手伝ってもらうつもりだと言うので、 それで解決することを祈った。
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──このときに、耳鳴りと夢のことを弟に話しておけば良かったのだ。

弟から貞子ちゃんへ話が行けば、貞子ちゃんは私に会おうとしただろうに。 そうして彼女と会っていれば、もしかしたら、その時点で無事に終わっていたかもしれないのに。 指輪さえ見付かれば耳鳴りもなくなるだろう、と判断した私が悪かった。
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夢の内容が少し変わった。 場所や、私と女性の姿勢は相変わらず。

昨夜までと違うのは、誰かの声が微かに聞こえることだ。 その声がするのは、私の足が向いている方向からだった。 そっちには海がある。

震える女性を見ながら、海の声を聞く。 指輪は、この女性のものなのだろうか。
そうだとして、この人はもう亡くなっているのだろうか。

時間の感覚が抜け落ちていく。
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翌日の夜、バイト終わりに先生に捕まり、心霊スポットへ連れていかれたのだけれど 幽霊が出るでもなく変な声が聞こえるでもなく、何事もないまま終わった。

こういうことが、たまにある。 おかげで先生が退屈そうだったので指輪の話をしたところ、 先生がちょっと元気を取り戻した。

(´・_ゝ・`)「指輪と耳鳴りと夢か」

('、`*川「関係あるかは分かんないけどね」

貞子ちゃんのことは伏せて、そろそろ解決するだろうということも話すと、 先生は少し残念そうにしていた。

(´・_ゝ・`)「その指輪欲しいなあ……」

('、`*川「もしかしたら何の曰くもない、ただの指輪かもよ。 夢も全然意味なかったりして」

(´・_ゝ・`)「じゃあ耳鳴りは何なのっていう話になるだろう」

('、`;川「……普通に病気だったら嫌だわ」

幽霊より恐い気がする。 私は無意味にシートベルトを撫でながら、夢のことを考えた。
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もし先生が望むように、全てが心霊的に繋がっているとして。 彼女は、夢で何を伝えたいのだろう。

('、`*川「……幽霊って夢が好きなのかしら」

(´・_ゝ・`)「何で?」

('、`*川「ホテルのときも人形のときも変な夢見たし……。 怪談でも多いじゃない。夢に出てくるのとか」

(´・_ゝ・`)「あー……干渉しやすいんじゃないの。 僕には分からないけど」


家に近付く。 私はシートベルトの留め具に触れた。
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家に入ると、耳鳴りがした。 居間に行き、ソファに座る弟の頭を小突く。

('、`*川「指輪は?」

爪'ー`)「貞子が見付けた。洗面台の裏にあったぜ」  

弟は清々しい顔で答えた。

('、`*川「そう。見付けた後はどうしたのよ」

爪'ー`)「兄貴に海まで連れてってもらって、貞子に指示された通りの場所に置いてきた。  返すのがもう少し遅れてたら、何かしら起こってたかもしれないってよ」

('、`*川「ふうん……」

爪'ー`)「とりあえず、何も起きないまま終わって良かったな」


じりじり。 耳鳴り。 私は適当に相槌を打って、自室へ向かった。

終わった? それじゃあ、この耳鳴りは?

本当に病気なのかもしれない。
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──結局、また夢は同じだった。 寝そべる私と座る女性、海から聞こえる声。

今度は、じりじり、あの耳鳴りも加わった。 女性を眺める内、ふと気付いた。

耳鳴りの音と、震える女性の動きが連動している。 何か喋っているのだろうか。 耳を澄ませていると、段々、意識が現実の方へ引っ張られていった。
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家に帰る。 母が心配そうな顔で私に声をかけた。

J( 'ー`)し「あんた、病院行ったんだって?」

('、`*川「ん? うん。何で知ってんの?」

J( 'ー`)し「お隣の沢近さんが、病院でペニサス見たって」

('、`*川「そう。……ちょっと最近耳鳴りがするから診てもらったの。大したことないみたい」

午前中、バイトを休んで病院に行ってみたけど、原因は分からなかった。 3日おいてもまだ聞こえるようなら、また来てください──とのことだ。

耳鳴り以外の症状がないので、仕方ない。
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J( 'ー`)し「何かあったら、すぐ言ってね」

('、`*川「うん……」

何か大きな病気だったら困るが、あの夢と関係している現象だとしても困る。 指輪については解決した筈だ。 なのに昨夜も夢を見た。耳鳴りは続いている。 指輪は関係ない?

('、`*川(参ったなあ……)

病気かオカルトか。 どっちかに絞れれば、まだ気も楽なのだけれど。

耳を押さえる。 じりじり。鬱陶しい。

J( 'ー`)し「……やっぱり、海の匂いがする」 呟き、母が小首を傾げた。
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じりじり。じりじり。

気付くと、耳鳴りが大きくなっていた。 海辺。私と女性と、遠くの声。

夢だ。 声は遠すぎて何を言っているか分からないし、女性は隣で震えるばかり。 目的とか、そういうことが何も伝わってこない。

──私に何の用があるの。 心の中で問い掛ける。口は動かなかった。

──指輪なら海に返したけど、それとは関係ないの? 女性が一際大きく震える。
今まで彼女の顔を隠していた影が、消えた。
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彼女は震えているのではなかった。

びっしりと身体中に張りついた生き物が蠢く度に、彼女も揺れているだけだった。

シャコやらカニやらが、目や口といった穴を出入りし、変色して膨れた肉を抉っている。 お腹にあいた穴から、ウナギかアナゴか、細長い魚が抜け出て砂の上でのた打った。 種類の分からない小さな魚が口の端から零れる。

頬の肉に噛みついたエビが、肉ごと落っこちた。

じりじり。 音は、彼女が食われていく音だった。
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女性が動く。 ぎこちなく、右腕を上げる。

彼女の小指と数匹のカニが地面に降った。 ぶよぶよに膨らんだ指で、ずるずるに崩れた顔の肉を千切る。

彼女の左手が私の口を開かせる。 体が動かない。声が出ない。 右手のそれを、口に詰め込まれた。

苦いような酸っぱいような、しょっぱいような味が広がる。

彼女は髪の毛ごと頭皮を毟った。
そうやって何度も自身の肉を千切っては、私の口に押し込んでいく。
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彼女の頭が上下に揺れた。子供が大笑いするようだった。

海の声が鼓膜を震わせる。至近距離。 何人もの笑い声。 突然、全身を水が包んだ。
いつの間にか私は海の中にいた。 女性が私に抱きついている。下半身にたくさんの手がしがみついている。

息が出来ない。 苦しい。苦しい。
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──腕を引っ張られた。
どこか硬いところに体を打ちつける。 タイル張りの床だ。

(;'A`)「何してんだよ!!」

兄が私を見下ろし、怒鳴った。 見覚えのある天井が視界にあった。 浴室。 私は呆然としながら、激しく呼吸を繰り返した。 兄の手が、私の頬を叩く

 咳き込んだ。 舌が震える。

慌ててうつ伏せになり、吐いた。 夕飯しか出てこない。
とろけた肉などは無かった。
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(;'A`)「おい……大丈夫かよ、お前」

息も絶え絶えになりながら、何があったのか、兄に問う。 尿意で目覚めた兄がトイレへ向かう途中、風呂場が騒がしかったので様子を見に来たのだという。

そしたら、私が浴槽に張った水に顔をつけてもがいていたそうだ。 いくら吐いても吐き気は止まなかった。 口の中に水氏体の欠片がこびりついているように思えてならない。 浴槽の水は、海水のようにしょっぱかった。
1: 2017/4/01 00:02 master
翌日の夕方、貞子ちゃんの家に行った。

私を見るなり、貞子ちゃんが青ざめる。

川;д川「何かあったんですか?」

全て話すと、彼女は地面に頭がくっつきそうな勢いで謝ってきた。 指輪を探しに行ったときに気付けば良かった、本当にごめんなさい── 何度も謝罪を繰り返す貞子ちゃん。 見ていて、こっちが申し訳なくなった。

('、`*川「……貞子ちゃん、何か分かるの?」

川;д川「指輪と一緒に、色んな霊が付いてきてたんだと思います……。 それでお姉さんにイタズラして……。 ……ああ、もしかして指輪が行方不明になってたのも、この人達のせいかも……」

貞子ちゃんに肩や背中を叩かれた。

「あとは私が帰してきます」と言っていたので、悪いとは思いつつ任せることにした。
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('、`*川「何とか出来る?」

川д川「これくらいなら……」 先生とは違った意味で頼もしい。

あとでお礼をしに来ると貞子ちゃんに言い、私は家へ戻った。 弟に「先輩」とやらへ電話をかけてもらうように頼むことにした。 罵声くらいは浴びせてもいいと思う。
1: 20xx/ミステリー体験 master
(´・_ゝ・`)「強烈だね」

3日後。 先生は珍しく同情の色を顔に滲ませ、私の話を聞いていた。
例によって、貞子ちゃんについては話していない。

('、`;川「まだ寒気がするわ……」

(´・_ゝ・`)「耳鳴りは?」

('、`;川「もうしない」

いつもなら「羨ましい」とか「もう終わっちゃったのか」とか言うところだろうけど、 さすがに先生も空気を読んだのか、黙って頷くだけだった。
夜の繁華街を、先生の車が走る。

(´・_ゝ・`)「ねえ伊藤君」

('、`*川「なに?」

(´・_ゝ・`)「お腹すいたよね」

('、`*川「うん……今日は朝からあんまりご飯食べてない」
1: 20xx/ミステリー体験 master
(´・_ゝ・`)「何か奢ってあげようかと思ってるんだ」

('、`*川「ほんと? ありがとう」

(´・_ゝ・`)「あのさ」

('、`*川「うん」

(´・_ゝ・`)「僕、お寿司食べたいんだけど」

('、`*川「無理」

(´・_ゝ・`)「だよね」


先生は、適当な場所でUターンした。
1: 20xx/ミステリー体験 master
──あの夢を見て以来、しばらく魚介類を食べられなくなった。

「しばらく」は「しばらく」。

1週間もすればまた元のように 海老フライもうな重も食べられるようになったので、 案外、私も図太いのかもしれない。


第十二夜『海の夢』 終わり



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引用元:http://toro.2ch.net/test/read.cgi/occult/1186053286/