bandicam 2017-07-01 14-07-15-058

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先生と関わったのが間違いだった。
彼のやることに付き合ったら碌なことがない。

本気でそう思わされた出来事がある。 今日は、それを話そう。

(´・_ゝ・`)「伊藤君、今夜、一緒にホテルに行ってくれないかな」

('、`*川 ('、`*川「は?」
まず、人がファミリーレストランでバイトしている真っ最中に、 普通の声量でそんなことを言う感性を疑う。    



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第三夜『いわくつきホテル』

('、`*川「何? は?」

(´・_ゝ・`)「ホテル」

('、`*川「ホテル? そういう名前の遊園地か何か?」

(´・_ゝ・`)「まあミラーハウスみたいに鏡張りだったり回るベッドのアトラクションがあったりするけど」 ホテルじゃねえか。

私は、右手に持ったマルゲリータピザを先生に叩きつけるかどうか、本気で迷った。 結局、普通に先生の前に置いたけれど。

──以前、先生と心霊写真のことを話したファミリーレストラン。 よりによって私が働いているときに昼食をとりに来た先生は、 私に気付くなり、冒頭の台詞を吐いたのであった。

('、`;川「いっ、行くわけないでしょ!年の差はともかく、色々非常識だと思うんだけど!」

(´・_ゝ・`)「え?」

先生は、珍獣を見るような目で私を眺めながら、 ナイフとフォークで小さく切ったピザを口に運んだ。 一応ピザカッターもあるのだけれど、先生は、それは使わなかった。 見た目は小綺麗だし、こういうところだけ見れば、紳士然としているのに。


中身が残念すぎる。
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 先生がピザを飲み込んで、一言。

(´・_ゝ・`)「馬鹿か君は」

('、`#川「なっ」

(´・_ゝ・`)「まさか、僕が君に『そういうこと』をするために誘ったと思っているのかい。 なんて悍ましい発想だ。そこまで悪い趣味はしてないよ」  

馬鹿にされた挙げ句、女として色々否定された気がする。  

反論の言葉を捻り出そうとする私から視線を外し、先生は続けた。

(´・_ゝ・`)「出る、って噂のホテルがあるんだよ。そこへ一緒に行かないかと言ってるんだ」

('、`;川「出る……?」

(´・_ゝ・`)「幽霊が」

('、`;川「ますます行かないわよ!」  

思わず怒鳴ってしまった。  
口を押さえる。周囲からの視線が痛い。  


ただ、単なる心霊スポットへのお誘いだったことには、ちょっと安心した。
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('、`;川「1人で行けばいいじゃない」

(´・_ゝ・`)「1人じゃ入れないらしいんだよ」

('、`;川「先生だって教授なんだから、女子大生の1人や2人、どうとでも言いくるめて連れていけるでしょ」

(´・_ゝ・`)「僕と学生がホテルに入るのを誰かに見られたらどうする」

('、`;川「知らないわよ……。第一、何で私が行かなきゃいけないの?」

(´・_ゝ・`)「ここでたまたま会えるなんて、きっと何かのお導きだと思う」

先生は結婚していない。 私も彼氏はいない。
互いに、気を遣うような相手がいないわけで。

(´・_ゝ・`)「ね?」

('、`;川「い、行かない。絶っっっ対、行かない!」
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('、`*川(どうしてこうなった)

(´・_ゝ・`)「見て見て伊藤君、マジックミラーだよ。 部屋の中からだと向こうの浴室が丸見えだね。なんて下品なんだろう」
ダブルベッド。てかてかしたソファ。いかがわしい自動販売機。

来てしまった。先生と。ホテルに。  
馬鹿だ。  
気付けば完全に言いくるめられていた
 「ちょろいな」とでも言いたげな先生の表情が忘れられない。腹立つ。

 私は、ホテルに入ってから通算10回目となる溜め息をついた。 時刻は、日付が変わる数分前。 明日の朝まで、ここで先生と過ごさなければならない。

(´・_ゝ・`)「伊藤君、テレビがあるよ」

('、`*川「どうせアダルトチャンネルでしょ……」

(´・_ゝ・`)「普通の映画専門チャンネルも見れるみたいだよ。  ──お、ナイスタイミング」  

チャンネルを合わせると、そこに映し出されたのは、数年前に話題になったホラー映画だった。  

ナイスタイミングどころかバッドタイミングだ。
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('、`;川「ちょっと、やめてよ」

(´・_ゝ・`)「幽霊さんも、その気になってくれるかもしれないよ」

('、`;川「冗談じゃ──」 ──ぷつりと、テレビの画面が真っ暗になった。

先生と顔を見合わせる。 途端、先生が嬉々としながらテレビを調べた。

どのスイッチを押しても反応はない。

(´・_ゝ・`)「怪奇現象」

('、`*川「……壊れてるだけでしょ」

私は、少し躊躇ってからベッドに腰掛けた。

回るベッドではなさそうだ。 枕元にあるパネルを操作すると、流行りの曲が流れた。
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(´・_ゝ・`)「昔、この部屋でちょっとした事件があったらしいよ」

部屋のあちこちを見て回りながら、先生が出し抜けに言った。 聞きたくない。さっさと寝て、さっさと帰りたい。 せめてもの反抗に、有線放送の音量を上げた。

(´・_ゝ・`)「あるカップルが泊まったんだ。 事を済ませて、彼氏の方が先に眠ったんだけど、 ふと目を覚ますと……」

何となく、室内の空気が変わった気がした。
気のせいだ、と頭を振る。

(´・_ゝ・`)「彼女が、彼氏の胸元に鋏を突き刺そうとしているところだった」

(´・_ゝ・`)「驚いた彼氏は彼女を突き飛ばし、部屋から逃げた。 フロントに行って事情を話すと、フロント係は警察を呼んで、部屋の様子を見に行き…… 知だまりの中でんでいる彼女を発見する」


('、`*川「……」
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(´・_ゝ・`)「その後、警察が来て色々調べたら──不可解な事実が判明した」

('、`*川「……実は彼氏が犯人でした、って話じゃないでしょうね」

(´・_ゝ・`)「いいや。彼女は自分で顔を切り裂き、胸や喉に鋏を刺していた。 まず間違いなく自氏だ。けどね──」

──彼女のI体の状況や氏の乾き具合からして、 彼氏が目を覚ましたという時刻には、とっくに彼女は氏んでいた筈なんだ。 先生が怪談のオチを呟く。

その瞬間だけ、有線放送から流れる音楽に、ノイズが混じった。

(´・_ゝ・`)「元々、精神的に不安定な女性だったそうだよ。  何度か自札未遂もしてたらしいし……まあ、その日も何かのスイッチが入ったんだろうね」

(´・_ゝ・`)「多分、初めは1人で自札したけど、寂しくなったんじゃないかな。 彼氏も道連れにしたくなったのかもしれない」
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('、`*川「それで、幽霊になってすぐ、彼氏を頃そうとしたってわけ?」
迷惑な話だ。 けれど口にするのは憚られて、喉の奥で飲み込んだ。

(´・_ゝ・`)「そういうことだろう。それ以来、この部屋は『出る』ようになったんだってさ。 ……んー、お札とか貼ってないか期待したけど、ないな」

壁のタペストリーをめくって、先生は肩を竦めた。
何をやっているのかと思えば、なんと下らないことだ。
私は、先生に枕を投げつけた。 それから、先生は徹夜で霊を待つというので、私がベッドに1人で眠ることになって。


ソファで本を読む先生を眺めている内、私の意識は暗闇に落ちていった。
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──気付くと、部屋の隅に座っていた。

私の趣味ではない服を身に着けている。
何とはなしに、私ではない誰かの視点なのだろうと思った。 夢なのだろう、とも。 私の意思とは関係なく、その人は立ち上がった。

(´・_ゝ・`) ──先生がいる。 ソファの上で、本を読んでいた。

私ではない誰かが、先生の傍に立つ。
先生は一向に気付く様子もない。 小難しい本のページをめくっている。
「誰か」が、がっかりしたのが分かった。

気付いてもらえない寂しさというか。 そういった感情が、私にも伝わってきた。
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先生を諦め、その人は方向を変えた。 ベッドが目に入る。 その上で横たわっている女 私だ。ベッドの左側を向くようにして眠っている。

「誰か」が私に近付く。
ベッドの端にしゃがみ込む。

(-、-*川 そこで、視界が暗くなった。
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真っ暗な視界の中、身じろぎする。 足がシーツに擦れる感触。 目が覚めたのだと気付いた。
ほぼ無意識に瞼を持ち上げる。

見知らぬ女と目が合った。 声が出ない。

心臓が縮むような感覚。
女は鼻から上だけを覗かせて、異常に小さい黒目で私を見つめている。
瞬きもせず、じっと。

('、`;川「──!!」 跳ね起きる。

ソファにいた先生が、本から目を上げた。
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(´・_ゝ・`)「何だい、びっくりするじゃないか」

('、`;川「せっ、先生、せん……っ」 ぱくぱくと口を動かし、私はあちこち見渡した。 さぞかし挙動不審だったことだろう。

しかし、あの女はどこにもいなかった。 ベッドから下りて、先生の隣に座る。
先生は邪魔臭そうに私を見てから、どうしたの、と訊ねた。

('、`;川「へ、変なの見た、変なの居た」

(´・_ゝ・`)「……出たの?」

こくこく、何度も頷く。 どんな姿だったか、どんな風に出たかをしつこく訊かれ、まずは私の心配をしろと思わないでもなかったが、私も興奮気味だったので体験した通りのことを話した。 先生がわくわくした様子で本を閉じる。


それから夜が明けるまでずっと起きていたけれど、結局、何事もなく。

ひどく残念そうな先生に送られて、家まで帰った。
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時間を進めて、翌日の夜。 すっかり恐怖の薄れた私は、昨夜の出来事を「寝ぼけていただけ」と結論づけた。

鼻歌なんかを歌いながらお風呂場を出て、2階の自室へ戻る。

ドアの前に立ったとき、斜向かいの部屋から出てきた兄に声をかけられた。

('A`)「あれ? お前、風呂入ってたのか?」

('、`*川「うん。次はお母さんが入るから、兄さんはその次ね」

('A`)「ああ……」
不思議そうな顔で、兄が首を傾げる。

──この数日後に「前にお前の部屋から女の声がしてた」と聞かされるのだけれど、 このときの私は、特に兄の挙動を気にも留めず、 おやすみ、なんて言って部屋に入った。
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髪を乾かし、翌日の予定を確認する。
午前にコンビニ、午後にファミリーレストランのバイト。

('、`*川(先生と会いませんように) 手を合わせて祈る。
半ば本気だ。

それも済むと、眠気が込み上げた。 ほぼ毎日バイト尽くしなので、疲れが溜まっている。 私は電気を消すと、ベッドに潜り込んだ。
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真っ暗な中で目が覚めたとき、ものすごく嫌な予感がした。
しかも金縛り付き。

('、`;川(勘弁してよ……)

壁の方を向いたまま、なるべく下らぬことを考えるように努める。 バイト先の店長の失敗とか。弟と兄がお菓子を取り合って喧嘩したこととか。

なるべく、最近笑った出来事を。 ふと、先生の顔が脳裏を過ぎった。最近よく見る顔だからだろう。 すると、そこから連想ゲームのように、コンビニのトイレとか先生の車とか、 昨日のホテルの光景が思い浮かんでいく。

くそ。あのジジイのせいで。

──きし、と、遠くで、床の軋む音がした。

心臓が跳ねる。
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きし、きし。
廊下を歩く音。
家族の誰かだろうと、自分に言い聞かせた。 鼓動が速まり、呼吸が乱れる。
苦しい。

きし。きし。きし。
足音が近付く。 きし。きし。 私の部屋の前で止まる。

静寂。 ドアが開く音はしない。 足音が遠ざかることもない。

目の前の壁を睨んだまま、私は、唾を飲み込んだ。

──しょきん。 すぐ背後から、変な音。
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しょき、しょき。

連続して聞こえる音は、金属が擦れるような、 鋏を動かしたときのものに似ていた。 息が止まる。 昨夜の、先生の話が記憶の底から這い上がった。

しょきん。しょきん。

すぐそこから鳴っている。 少しして、それに変化が生じた。

ひどく柔らかいものに、無理矢理、刃を通したような。

じょり、とか、ぶち、とかいうような。


〈アアアアア゙ァァァァァァイ゙イ゙イ゙イイイィィイイ〉

けたたましいサイレンのような──声。

悲鳴だと気付くのに、数秒かかった。
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じょり、じょり、ぎち、ぶちん。

〈ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい〉

耳を塞ぎたくても、体が動かなかった。 部屋中に満ちる声が、耳の中で、わんわんと反響する。 何かを殴るような重たい音がすると、悲鳴が途切れ、 ぶくぶく、水の中で泡が立つのに似た音が鳴り出した。
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音が。声が。  

近付いてくる。 しょきん。 耳元で鋏が鳴る。

視界の隅に、どす黒く濡れた顔が現れた。

長い髪が私の顔に掛かる。 真っ白な中にぽつりと浮かぶ小さな黒目。

その目が、私の目を覗き込んだ。
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(;、;*川「先生の馬鹿!先生の馬鹿! 先生の馬鹿!!」

昼、私はVIP大学の事務室に電話を掛けて先生に取り次いでもらい、 泣きながら先生に罵声を浴びせた。 それから、ホテルで見た女が部屋に現れたことや、 気付くと朝だったこと、 私の部屋にあった新品の鋏が何故か錆びていたことを捲し立てる。

先生の返答は、「ずるい」だった。
ふざけんな。
『ホテルから君の家まで、ついていっちゃったのかなあ。 君、随分と幽霊に好かれてるね。羨ましい』
電話口の先生の声は、うきうきを隠しきれていない。
本当にふざけんな。

(;、;*川「せ、先生があんなところに連れてくから……。 どうしたらいいのよう……」

『ううん、そうだなあ。今夜、またあの部屋に行ってみようか』

(;、;*川「馬鹿じゃないの!?もうあそこ泊まりたくないわよ!!」

『まあまあ。大丈夫、今度は小一時間で帰るから。 君の、錆びてたっていう鋏も持っておいで』
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──その夜のことは、恐ろしくて話したくない。

だが、ここまで話しておいて沈黙するのも酷だろう。

だから、ごくごく簡単に説明すると。 先生は例のホテルテルの一室にて、ひたすら、錆びた鋏でそこら中の空間を突きまくり。

聞くに堪えない罵詈雑言を、見えもしない霊に向かって吐きまくった。

霊に代わって私が先生を呪ってやろうかと思えるほど酷い内容だったことを、 是非知っていてもらいたい。

ついでに、それ以降あの女が私の前に現れなかったことも。
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後日談。

しばらく先生の家や研究室で、物が動いたり鋏が錆びたりする怪事件が多発したらしい。
「先生の研究室に女が入っていくのを見た」
「先生に女がしがみついてた」と言う学生も多くいたが、 先生はといえば、例によって、その女の姿を見ることはついぞ無かった。

そして1週間ほどすると、全て収まったのだという。 霊の方が諦めたであろうことは、明白だった。
1: 2017/4/01 00:02 master
(´・_ゝ・`)「地味な嫌がらせはいいから、姿を見せろって話だよねえ。つまんないの」

('、`;川「……」
そのとき、ようやく私は察した。

先生は霊に対する興味が強い。強すぎる。

そのくせ── 所謂、とんでもない「零感」野郎なのである。


第三夜『いわくつきホテル』

 終わり
2: 2017/04/01 00:02
ふえぇ…怖いよぉ~…



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引用元:http://toro.2ch.net/test/read.cgi/occult/1186053286/