1000: 2017/4/01 master-
小学生の頃のある夏休み、おじいちゃんの家に泊まりました。
おじいちゃんの家はとても田舎で、標高の高い場所にありました。 おじいちゃんの家には毎年お盆に行っていましたが、 今年は父の仕事の関係上八月のはじめの土曜に行く事になりました。 いつもはみんなで行くのですが、今回は父と二人だけで行くようです。
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金曜の夜中に家を出て車でおじいちゃんの家に向かいます。
そして朝6時くらいにおじいちゃんの家に到着しました。
おじいちゃんが家から出てきて私たちのことを歓迎しました。
その時、私は非常に眠かったことを覚えています。
それから夕方くらいまでおじいちゃんの家でスイカを食べたり、虫とりをして遊んだりしました。 夕方になって雨が降り出しました。 激しい雨でした。
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夜8時、雨もすっかり止みそろそろ帰ろうかという時になって、
近所の人が帰り道である道路ががけ崩れで通れないということを伝えに来ました。
それから父とおじいちゃんは話し合っい、
父は明日おじいちゃんの家に車は置いたまま別の道から
別の交通手段で山を下りそのまま家に帰ることになりました。
そして私はおじいちゃんの家に残ることになり、 後から父が迎えに来るということになったのです。 なぜかおじいちゃんは私を泊めることを渋っていたようでした。
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- 私は正直わくわくしていました。 おじちゃんの家に泊まるのは初めてだったし、 あまり慣れぬ土地で過ごすことがまるで旅行のように感ぜられ、 色んな期待を膨らませていました。
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9時ごろ、風呂にも入り歯磨きもして寝ようとしたらおじいちゃんが
「話がある」と言い私を居間に呼びました。
居間にはおじいちゃんだけがいました。父は風呂に入っています。 そして、おじいちゃんはちょっと怖いような、しかし穏やかな表情で話し始めました。
「うちにはな【やっこさん】っち言う人じゃないもんがおるんよ。やっこさんはなずっと昔からこの家に住んどう守り神みたいなモンや。家の中に潜んどう虫やらを食べてくれるんよ。住みついた家を火事や病気から守ってくれる。 でもな、こいつは必ずしも良い奴というワケやない。時に人へ悪さすることがある。」
そう言っておじいちゃんは少しの間沈黙しました。
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そして私が怖がっている事を表情から読み取ったのでしょう。
こう続けました。
「でも怖がる事はない。今から俺の言う事を守ればやっこさんはお前に悪させん。」
おじいちゃんが言った守ることは
・夜中あまり寝室からは出ない。(昼間は大丈夫だそうで、寝室も安全だそうです)
・もしやっこさんに会ってもやっこさんの方を見ない。もしくは目を瞑ってやっこさんがいなくなるのを待つ。
(やっこさんがいるときは「いる」という事が分かるそうです)
・やっこさんがいる間は、やっこさんについてあまり考えてはならない。
・どうしてもやっこさんのことを考えてしまう場合は、おばあちゃんのことを思い出す。 (おばあちゃんはこの時すでに他界していました)
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私はあまり難しくないおじいちゃんの言いつけに安心していました。
そしてやっこさんはどんな姿をしているのかを考えました。
私はやっこさんという名前からトトロに出てくる「まっくろくろすけ」を想像しました。 なんとも可愛らしい想像に私はやっこさんに会いたくなりましたが、 おじいちゃんの言いつけは守る事にしました。
その後私はすぐ眠りにつきました。
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目覚めたときはもう朝で、父がおじいちゃんの家を出る少し前でした。
私は、また虫とりや探険なんぞをして遊んでいました。
近所の数少ない子供とも友達になりました。
(何人かはあからさまに私を避けていましたが)
そうして、私は夏休みを満喫していて、特に何事もなく3日を過ごしていました。 そして4日の晩は疲れていた事もあり少し早めに寝ました。
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- 真夜中、目が覚めてしまいました。 妙に目が冴えており、少し尿意がありました。 私は布団から出て蚊帳を潜り便所に向かいました。 その時の私はやっこさんの事やおじいちゃんの言いつけを少し忘れていました。
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きぃ、きぃと床の軋む音が心地良かったです。
用を足し戻る時、「それ」はいました。
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姿を見たわけではありません。
しかし確かに「それ」は「いる」と分かりました。
この家に住んでいるが、この家のモノではない異物がそこにはいました。
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私は直ぐにおじいちゃんの言いつけを思い出し、それを見ない事にしました。
それはゆっくりと移動していました。
不意にそれは視界の隅に写ってしましました。
恐らく私の身長くらいでしょう。黒いうねっとした塊がゆっくりと動います。
「まっくろくろすけ」
なんて可愛いものではありませんでした。 それは非常に気味が悪く、私は悪寒を感じました。 そして、それは饐えた様な臭いを放っていました。
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私は必氏に目を瞑りそれが居なくなるのを待ち、
頭にそれが浮かんでこないよう懸命になりました。
しかし、それが放つ饐えた臭いでどうしてもそれの存在が頭にへばり付いて離れません。
私は氏んだおばあちゃんの事を考えました。
おばあちゃんの事を考えると何故かそれから思考を逸らす事が出来ました。 そうしている内にそれは結構遠ざかっていった様に思えました。 そして私は何を思ったのか、恐らく奇態なモノへの好奇心でしょう、薄眼でそれを見てしまいました。
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黒いうねうねとした塊でした。
それが廊下の壁を舐めるように移動していました。 私がその奇妙な塊に目を奪われ放心しいると、 その黒い塊の何かと目が合いました。 黒い塊は移動を止めました。
そしてゆっくりとこちらの方向へ引き返して来たのです。
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私はこちらに向かってくるそれに対する恐怖で我に返り、急いで寝室へと逃げました。
逃げている最中塊から「うぁ、うぁ」という呻きなのか何なのか分からない音がしました。
寝室の前まで来て、私は寝室に入ろうと戸に手を掛けました。
ねちゃっという嫌な感触がありました。 前には黒い塊がありました。 どうやら私は寝室へ逃げていたのではなく、 黒い塊の方へ誘われてしまっていたのかもしれません。 そこで私の記憶は途切れています。
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朝私はきちんと寝室で寝ていました。
起きて、おじいちゃんに夜中あった事を話しました。
おじいちゃんは怖い形相になり私の目を覗き込みました。
「大丈夫やったんか?なんともないか?」
と聞かれました。
私は「大丈夫と思う」と言うとおじいちゃんはとても安堵した表情で言いました。
「良かった。本当に良かった。ばあさんがお前を助けてくれたんかもしれん。」
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- 後から聞いた話ではやっこさんと目が合い魅入られてしまうと狂ってしまうそうです。 なんでも虫の代わりに人間の精神みたいなモノが食われのだそうです。 私には何にもなくてよかったです。
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- それから私はその日のうちに家に帰され、 それから二度と夜の内にはおじいちゃんの家に上げてもらえませんでした。 しかしお盆の日には夜も入ることができました。
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- これも後から聞いた話なのですが、 昔村の田んぼの害虫を食べてくれる神様がいたそうです。
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- その神様は村の人々にとても崇拝されており、 村人は毎月感謝と畏敬のしるしとしてお供え物を捧げていたそうです。 しかしある日、村人の一人がその神様に腐った食べ物を捧げたそうです。 その村人は自分の田んぼが獣に荒らされ、その腹いせに神様にそのような事をしてしまいました。 神様が人を呪うようになったのは、それからだそうです。
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- 人を狂わせていく神様に困った人たちは、 村に修験者達を招き、神様を鎮める事をお願いしました。 しかし、神様の怨念は強く修験者たちには手に負えませんでした。 そこで修験者たちは、その神様をある家に閉じ込め、そこから出られなくするよう結界を貼ったそうです。 その家は、神様に腐った食べ物を捧げた村人の家でした。 そして神様は現在に至るまでその家に閉じ込められているのだそうです。
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私が体験した話は以上です。
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