- 1000: 20xx ザ・ミステリー体験
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中学校の頃の話。
朝チャイムが鳴って、担任の先生が教室に入ってきて自分を見たとたん、驚いた顔をしながら怒り出した。 「〇〇(私の苗字)、お前なんで来てるんだ!休みじゃなかったのか?」
どうやらチャイムが鳴る五分くらい前に、うちの母から私が風邪をひいて熱が出たから休む、という電話を、用務員のおじさんが受けたらしい。
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怒られたのと意味がわからないのとで一瞬パニックになって思わず
「いやいやいや、ちゃんと来てますから!」
みたいなことを笑いながら口走ってしまった。先生の悪ふざけかと思ったけど、当の先生はいぶかしげな変な顔をしてる。
でも、家から出るとき母がいってらっしゃいと玄関で見送ってくれたので、私が家を出た後に母がそんな電話をするわけがない。誰かと間違えたにしても、うちのクラスには〇〇という苗字は自分しかいない。 さらに念のため、休み時間に自分で確認してみたけれど、同じ学年(100人くらい)で違うクラスの〇〇の苗字を持つ子は(男子女子合わせても)数人しかいない上に、ちゃんと全員出席している。
なぜそんな電話があったのかわからなかったけど、元気に登校している以上その日はそのまま普通に学校で過ごした。
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そんなことがあったのもすっかり忘れてしまった数ヵ月後のある日。
風邪を引いて微熱を出し、母から学校に休むという旨の電話をしてもらった。一日で熱は下がったので、次の日ちゃんと学校に行った。そしたら先生に怒られた。 「お前なんで昨日無断で休んだんだ!」 すかさず「昨日、母が電話しましたよ!」と反論したけど、取り合ってくれない。
担任が昨日の時点で他の先生や用務員のおじさんにも確認したけれど、誰も電話を受けていなかったという。 でも嘘じゃない。自分が居間で座ってうどん食べてる横で、母はちゃんと学校に電話をかけていた。
おかしいと思いながらも授業を受けていて、ふと思い出した。何ヶ月か前の、私が休む、という電話。 あれってもしかして、昨日母がかけた電話だったりして?時間を超えて、数ヶ月前のあの日に繋がってたんだとしたら……?…と考えて、んな馬鹿な、と思いつつぞわっと鳥肌が立った。
でも誰かに言っても笑われるだけだろうし、信じてももらえないだろうし、この事は自分の中にしまっておくことした。 当時関わった誰か(母、担任、用務員)がイタズラしたのかもしれないが、そんな事をする意味がわからないし、それはそれで気持ち悪い。 あれはいったい何だったのかなあ。
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聞いてくれ。
俺はこの前友達と釣りにいったんだ。いつも二人で酒飲みながらダラダラやるのが好きでね。 別に話す事もないんだが、このダラダラがいいんだ。人生の無駄遣いもいいもんだ。
夜になると、簡易コンロにもなるランプで、釣った魚や肉を調理する。あたりには肉や魚のい~匂いが漂う。 友達の味付けがまた絶妙なんだ。適当に塩をふるのにいつも味は同じで、ほどよい塩辛さ。男の料理って感じなんだ。
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その日もいつもと変わらず、料理に舌鼓を打ちながら魚がかかるのを待っていた。
バシャバシャバシャ・・・・・・・・・ バシャバシャバシャ・・・・・・
何の音だ?何かが激しく水面を叩いている・・・。
犬か猫がおぼれてるのか?魚が飛び跳ねる音にしてはでかすぎる。 暗くてよく見えなかったので、友人に懐中電灯を借り近くの水面を照らす。 何にもいないじゃん。でもまだ音はする。
近くと思っていたんだが、実は音の原因は結構離れていたんだ。 夜だったから音がよく響く。そのせいで近くだと思ったんだろうな。
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こんなに音がするんじゃ魚が逃げる。嫌でも音の原因を特定しないと。
そう思った俺と友人は、釣り場を離れて音の方に歩いた。
生い茂る草を掻き分けて歩いていると、遠くの方に車が停まっている。ライトはつけたまま湖の方を照らしている。 車の前には二人の男。水面を見ているようだった。
水面をよくみると、男二人がいるすぐ下あたりから波紋が広がる。 なんだろう?男二人にばれないように近づく。
俺よりも視力のいい友人は、俺より先に音がする原因を知ったんだろうな。 男二人のほうに近づく俺の背中を後ろにひっぱった。
「逃げよう!!」
なんでだろう?そう思った。目を細めて男達をみると、その原因がわかった。 なんと、男達は人を湖に沈めようとしていた。沈められているのは女。歳は暗くてわからなかった。
なんで沈められているのかもわからない。ただわかるのは、男二人が行っている。それだけだった。 俺はびびった。単純に自分達の身の危険が迫っている事にもびびったが、人を消している現場を始めてみたのにもびびった。 人は人をあやめてしまうことができるのか。そう思った。
女はどうやら体中を縛られていて、喋れないように口を封じられているようだった。 溺れそうなのに声をあげない。
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数分くらい経って、女が沈み始めた。
バシャバシャとしていた音が、段々小さくなっていくんだ。
バシャ・・・・バシャ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・バ・・・・。
女が沈んだのを確認すると、男二人はすぐに車に乗り込み、その場を後にした。
俺達は警察を呼ぼうと思った。だが、湖はかなり山奥にあるんだ。 まだ若いのにのんびりするひと時を大切にする俺達は、携帯電話を釣りに持ち込まない。 そういうルールを互いに課していた。それが仇となった。
自転車できていた俺達が警察を呼びにいくには、どれだけ時間がかかるだろうか。 一つわかっているのは、今しがた沈んだ女が亡くなる前に警察が来る事は不可能だってことだ。 警察を呼ぶ前に女を引き上げないと。まずは人命救助だ。
そう思った俺達は、急いで女が沈んだ場所までいき、水面をみた。 かなり深い。沈んだ女は全くみえない。
どうやって引き上げようか。飛び込んで引き上げるか?
それしかないだろう。水浸しになるなんて悩んでる暇はない。人命よりも優先すべきものなどないのだから。 俺達二人は一斉に飛び込み、近くに沈んでいるだろう女の身体を捜して下へ下へともぐった。
残りの肺にある酸素が半分を下回った時だった。俺の右手に何かが当たる。 女だった。女の背中だった。 よし、助けられる。そう思った俺は、両手で女を捕まえ、勢いよく上昇し始めた。
水面から顔を出す。俺が空気を吸うよりも、女に先に吸わせないと。 いや、吸えるのか。もう呼吸をしていないだろう。急いで陸に上げて人工呼吸を施さないと。
俺が女を持ち、友人が先に陸にあがり、女を受け取り引き上げる。そういう段取りだった。 友人が陸に上がろうとしている間、長い髪の毛で顔全体が隠れた女を見た。
この女は一体どういう理由で、こんな目に合わされることになったのだろう。 色々と想像している俺。その時、突然女が動き出した。口からは飲み込んだ水を大量に吐き出す。
よかった、生きてる。そう思った。しかしそれは間違いだった。 女はショック状態にあり、俺の身体に凄い力でしがみつく。笑えない。女の力じゃない。これが火事場の馬鹿力という奴か。
女もショック状態だったが、女にしがみつかれた俺もショック状態だった。
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顔が髪の毛で隠れ口だけしか見えない女は、正に貞子だった。
空気を吸うため口が大きく開かれる。歯茎がむき出しになり、まるで俺に食いかかるかのような顔つきだった。
その顔をみて、俺は大声をあげて怖がった。
友人はそれを見て、早く女をこちらに渡せというんだが、女にしがみつかれてまったく動けない。 女はわざとやっているのか、俺を溺れさせようとするかのように下へ下へとひっぱる。
足だけで浮いていたが、それも限界に達していた。女と共に沈み始める俺。
まじかよ。溺れる子供を助けようとして一緒に溺れるっていうニュースは毎年よくある。 かっこ悪いよなー。助けにいって溺れるなんて。そう思ってた。まさか自分がそうなるとは。
水が口に大量に入り、意識がぼやけ始めると、亡くなることについて色々と悩むことをせずにすんだ。
友達の声が遠のく。あいつの作る豚のロースの照り焼き。もう一回食いたかったなぁ。 夜空に負けないほどの闇が、俺を包み込んだ。
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ゴス。妙な音がした。俺の左側で。
ゴスゴス。また音がした。俺の左側で。
それからしばらくして目を覚ますと、俺は陸に上がっていた。
友人が俺を引き上げてくれたのだ。友人は、お前に人工呼吸なんかしたくなかったと言った。
俺は笑いながら泣いて友人に感謝した。こいつには感謝してもしたりない。 その後ふたりで、嬉しくて意味もなく笑いあった。
笑いも段々おさまってきた頃、俺はあることを思い出した。そうだ、女はどうした?俺にしがみついた女だ。
友人にそのことを聞くと、友人は下を見て黙り込む。なぜだ?
ますます気になる俺に友人は、絶対に秘密にしろよ?と前置きした後語りだした。
女がしがみつき溺れ始めていた俺をなんとか救おうと思った友人は、 危機的状況にありながらいくつかの方法を考えたんだそうだ。
一つは、自分も飛び込んで女を引き剥がす。
しかしこれだと、引き剥がした女に自分がつかまりしがみつかれる恐れがある。
次に考えたのは、一旦沈むのを待って、二人とも動かなくなってから引き上げる。
でもこれも危ない。だって、最初に女を引き上げた時女は意識がなかったんだから。 また同じようにいきなり息を吹き返し、引きずり込まれる可能性がある。 そう考えた友人は、三番目の方法をとることにした。
女の意識を失わせ俺から引き剥がすという方法だ。 二人とも救えるなんて事は諦め、俺だけでも助けよう。そう思ったらしいのだ。
友人は女の頭に石を投げ始めた。気絶させるためにはしょうがない。 何度か石を当てるが中々気絶しない女。そうこうしてる間に、俺が意識を失い始めた。
あせった友人は、近くにあった抱えるのにも苦労するほどの巨大な岩を女の頭に投げた。 女は岩に押しつぶされ、沈んでいったという。それから俺を引き上げた。
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俺に人工呼吸をしている間、友人は冷静になって考えた。
女をあやめたのは自分なんじゃないか?とどめを刺したんだから。人を消してしまった。どうしよう。
友人は俺が息を吹き返したとき、喜びながら絶望していたという。 それを聞いた俺は、すぐに湖を離れようと言った。
友人は女はどうする?と聞いてきた。 俺は、見なかったことにしようと言った。どうせ女は俺達が助けようとしなかったら亡くなっていた。
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亡くなるのには変わりないのに、俺の友人が犯人になるのはおかしい。そう思った。
なにより俺の命を救うために女にとどめをさしたんだ。俺は何が何でも友人を守ろうと思った。 あれから数年経つ。俺と友人は今でもよく釣りをする。
魚がかかるのを待ちながら友人の焼く豚ロースの照り焼きを味わっていると、あの時の事を思い出す。
女は一体誰だったのか。女を沈めた男達は何者だったのか。あやめてしまう理由はなんだったのか。
知りたいのなら、再びあの湖をおとずれ、女に聞いてみるしかないだろう。 俺の友人の投げた岩の下になっている、あの女に。
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