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「エホバの証人の活動のなかで、最もつらかったこと」元信者が告白
漫画家・いしいさやさんの著作『よく宗教勧誘に来る人の家に生まれた子の話』が話題だ。
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エホバの証人の母のもとで育った彼女の、壮絶な体験談が反響を呼んでいる。
前回記事では、エホバの証人の全容を紹介した。
今回は、信者時代の生活を中心に話を聞いた――。
(取材・文/伊藤達也)
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同級生の家に勧誘しに行く
「信者の人が宗教勧誘で自宅に訪問に来る」って、みなさんも覚えがあるかと思うんです。 でも、私は「来る」んじゃなくて、「行く」側の人間でした。
それも、自分で「宗教を広めたい」と思っているわけじゃなくて、母親に連れられていくだけでしたから、本当に憂鬱でした。
イヤでイヤで仕方がなかった。
子どもでしたから、本当は休みの日は絵を描いたり、友達と遊んだりしたかったです。 訪問して話を聞いてくれる人なんて、優しいおばあさんくらいで、ほとんどいません。
「お前らは間違っている!」なんて言ってくる挑戦的な人もいるんですけれど、信者の側からすると、「真理がわからないかわいそうな人」なので、何度断られても繰り返し訪問する。
嫌がらせとかじゃなくて、親切心なんです。
拒絶されることがほとんどだったのですが、なかには、小さい私がパンフレットを差し出せば、それだけは受け取ってくれる人もいる。
だから連れて行かれている面もあったと思います。
どうすればパンフレットを受け取ってもらえるかとか、声のかけ方とか、訪問の練習をたくさんしました。
嫌なんですけど、やると大人が褒めてくれるから、子供としては悪い気はしないんです。 漫画にも描きましたけれど、同級生の家に訪問した時は辛かった。
ピンポンしたら同級生がいる……あれはキツいです。
信者ではない父が母にお願いして、同級生のいる地域は避けていたんですけれど、ある日
「時間が余ったのでここも回りましょう」と訪問することになってしまって……。
チャイムを押して、扉が開くと、そこに同級生がいる。
なにか言われるわけじゃないんです。
ただ、親御さんの後ろのほうから、「なんだこいつ」という顔で見られる。
学校で何か言われたらイヤだなぁってずっと思っていて、自然と静かになりました。 二世信者だからって、学校で、いじめられるわけじゃないんですよ。
そもそも低学年の頃は普通じゃなくてもよくわからない。 友達もいました。
けれど、自分で自分が「普通でない」と気づいてからは、友達から質問されるのが怖くて、自分から距離を取るようになりました。
いじめられてはいなかったです。
クラスメートは「何かおかしいな」と思うと、いじめるんじゃなくて、距離を取るんですよね。 まさに腫れ物に触る感じです。
たまに仲良くなる子もいましたが、その子も別の宗教の二世で、同じような境遇でした。
競争が禁止されているので、運動会では、騎馬戦や応援合戦に参加できません。
偶像崇拝や誕生を祝うことが禁止されているので、行事も休むことがある。
信者の子供のなかには、「なんでやらないんだよ」といじめられる人もいたみたいです。 私は誰にも、何にも聞かれないように、一人でいるようになりました。
声をかけてくれる優しい子もいましたが、自分で壁を作っていた。
図書室にいりびたっていましたね。
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母にムチで叩かれる
兄弟姉妹(エホバの証人では信者をこう呼ぶ)でエホバの教えを学ぶ集会も、訪問も、正直に言えば行きたくなかった。
でも、うっかり教えに反することを口にしてしまうと、母から「おしおき」をされてしまうんです。
この「おしおき」がかなりキツい。
ムチで叩かれるんです。 いまは表向きにはしないように、とはなっているようですけれど、私の子供の頃は当たり前におしおきがありました。
エホバの証人は聖書原理主義。
つまり、聖書の言葉を隠喩とは捉えず、そのままの意味で解釈します。
聖書に「しつけにはムチで叩く」と書いてあるから、本当にムチ、正確にはムチ状のもので叩くんですよね。
人によってはベルトだったり、電源コードだったり。
うちの母はベルトを2本用意して「細いムチ」と「太いムチ」のどちらにするか選ばせました。
細いムチって、痛いんですよ。
おしりをムチで叩かれると、完全にやる気を削がれます。 服の上からではなく、服を脱がせたうえで直接肌に叩きつけるので刺すように痛い。
ムチで叩かれる前には、何がどうしてダメだったのかを自分で反省させてから、「お願いします」と、自分が納得していることを示します。
叩かれた後には「ありがとうございました」と言わなければいけない。
でもその行為の後、母は私を抱きしめて、こう言いました。
「あなたが嫌いだからじゃないのよ」――。
ここまで聖書の教えにあるのですが……。
「どんなムチがいいか」なんて雑談を、集会に来ていた兄弟姉妹がしているのを聞いたことがあります。
ムチで叩かれるのがおかしいと気づいたのは、小学校の中学年の頃です。
他の子が親に叱られた話を聞いていると、「どうやら他の家ではムチでは叩かれてないらしいぞ」と(苦笑)。
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エホバへの反発
兄弟姉妹は、みんな身なりが清潔で優しい人たちです。
子供から見たら、姉妹はキレイなお姉さんたち、という印象でしたね。 でもやっぱり、ムチのことも含めて「普通でない」から、だんだんと違和感を抱いていきました。
もともと私が内向的な性格だったせいもあるかもしれません。
もしコミュニケーション力が高かったら、エホバの証人のコミュニティの中で関係を作って、 ある意味幸せに生きていたのかもしれない。
みんな肯定してくれるし、居場所になる。
実際に、エホバの証人を辞めた人を私は見たことがありません。
恋愛も、信者の間だけで、外部の人との恋愛は許されません。
ただ、内部でも、グループデートでなければいけなかったり、親が付いてきたりなど、かなり厳しい。
要は、婚前交渉が禁止されているので、何かが起きないように細心の注意を払う。
車で二人きりにならない、スキンシップもダメ。
では早く結婚すればいいかというと、聖書には「成熟した男女が結婚するのが望ましい」と書かれているので、 若いうちに結婚するのも難しい。
そもそも、エホバの証人には「ハルマゲドンから生き残って、楽園に行ってから結婚したい」という人が多いですね。
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子供も楽園で過ごしたほうが幸せなんだ、と。
みんな思考が楽園に向かっているんです。
母はもともと潔癖な性格なので、婚前交渉禁止というエホバの証人の教えに共感し、惹かれたのかもしれません。
実際に、母は婚前交渉していなかったそうです。
エホバの証人は婚前交渉を禁止していますが、性交渉そのものは「教材」で教えるんです。 でも、母はもともと潔癖なせいもあって、性のことはなかなか教えてくれませんでした。
でも、世に性の情報は溢れていますから、子供でも目につきます。
むしろ隠されているからこそ、私の興味は大きくなって。 エホバの証人の教えへの反発心もあり、性への関心を強めさせました。
高校卒業後は母が体調を崩し、奉仕活動をしなくなったり集会に行かなくなったりしてよくなり、 なんとなくエホバから距離をおいていたのですが、それでもなお私には生まれた環境で染みついた縛りのようなものがありました。
だからそれを吹っ切るために最大の反発をしてみました。
それが婚前交渉だったんです。
初めての相手は好きでも何でもない、専門学校の先輩。 婚前交渉はエホバの証人と完全に訣別するためでした。
婚前交渉をしたらもう戻れない、戻らないぞという決意がありました。
終わった後は、正直に言うとモヤモヤしました。 普通は初めての経験は大切にするものですよね。 本当にこれでよかったのかな――
その頃にはもう信じ切っているわけではないんですけれど、 「これで楽園にはいけないな。ハルマゲドンで亡くなっしゃうな」と思いました。
教えを聞き続けて育っていますからね。
むしろ、「やっと消える」という意識が強かったように思います。
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そして「解脱」へ…
そもそも、私がエホバの証人との訣別を決めた最大の理由は、「NHKにようこそ!」 (滝本竜彦の小説。ひきこもりの青年と、彼を立ち直らせようとする新興宗教の二世信者の少女を中心とした物語)を読んだからです。
実は、その作中にエホバの証人が出てくることは知っていました。
この本は読んではいけないことになっていましたから。
ただ、たまたま高校の図書館に本が置いてあって、つい読んでしまったんです。 その頃には、自分の環境がおかしいことには気づいていました。
でもあらためて「やっぱりおかしかったんだ!」とはっきり分かった。
その時はとてもテンションが上っていました。
「もうここにはいたくない! 自分の道を歩きたい!」
母に集会に行かないのを咎められた時に、すべてぶちまけました。
「本当は全部嫌だった!」って。
母からは、「最近変だよ」「昔より頭悪くなったね」「エホバのことがわからないなんて!」など、いろいろ言われましたね。
「NHKにようこそ!」に出会えてよかった。
あの本を読んでいなかったら抜け出せなかっただろうし、漫画を描くこともなかっただろうし、 一生「奉仕」する人生だったと思います。
この漫画には、たくさん反響を頂きました。
多かったのが「私もよく分かる」「共感できる」という声です。
それって、もちろん皆さんがエホバの証人の信者だからとか、新興宗教の二世だから、というわけじゃない。
この話が、家族の、あえて強めに表現すれば「毒親」の話だからだと思うんです。
親との関係に苦しんでいる人が、共感してくださったんじゃないかと思います。
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考えるきっかけになれば…
エホバの証人を信じていても、洗礼〈バプテスマ〉の儀式を受けるまでは、聖書を研究している「研究生」と呼ばれます。
母が研究生になったのは、私が幼稚園の頃で、洗礼を受けたのは私が小学5年生の頃でした。
私自身は、納得してから良いという理由で、バプステマは受けていないんです。 父は信者ではなく、母が信者になるのを止めなかった。
母が私を集会や勧誘に連れ出すのを見ても、何も言わなかった。 母親に縛られる「毒親問題」には、父親の無関心がある事が多い。
そのあたりも似ているのかと思います。
じつは、私の祖父母もエホバの証人と別の新興宗教に入信していて、母も二世だったんです。
それも、母がエホバの証人に入信した理由の一つだったんだと思います。 母が祖母にエホバの証人の研究生になったことを報告したら、勘当されたそうです。
ただし祖父は、私のことを心配し、その後に態度を緩め、我が家に来るようになりました。 子どもの頃の私を、唯一助けてくれようとしたのはそんな祖父でした。
本当は奉仕活動をしなきゃいけない休みの日をあえて狙って私を連れ出してくれたりして。
だからこそ、祖父の葬儀で、エホバの証人の教えのせいでお焼香もあげられなかったのは辛かった。
「しちゃダメ」ではなくて、「自分の意思でしないよね?」と言われているので、自分で選んでお焼香しないことになる。
本当に悲しかった。
荼毘に付されている煙を見ながら、心の中で「ごめんなさい」と「ありがとう」を伝えました。
私がこの漫画を描いたのは、決して信仰の自由やエホバの証人を否定したいわけではありません。
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菜食主義や政治思想などと同様に、各人がどういう主義でどういう生活をするのも自由だと思います。
ただしその家に生まれ、その生活を強制された子は、それが「普通」になってしまうということです。
子どもは、親も家庭での生活も選べませんから。
そしてその子は、世間の「普通」とのずれを認識したときに、多かれ少なかれ戸惑いや孤独を感じることもあるということを知ってもらいたかったのです。
漫画を読んでいただくのは本当に嬉しい。
でも、読む人にとっては辛い話だと思うんです。
自分の環境に当てはめて、共感しすぎたり、過度な不安を抱えてしまったり。
だから、読める人だけ読んでほしい。
宗教の自由は認められるべきだと思うのですが、子供にそれを強制することには、 考えなければいけない問題があるのではないかと思っています。
この漫画を読んでくださった人が考えるきっかけになればと思っています。
参考 http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54011
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