bandicam 2017-10-26 20-27-39-797

1: 20xx/ミステリー master
俺が宮大工見習いを卒業し、弟子頭になった頃の話。

オオカミ様のお堂の修繕から三年ほど経ち、俺もようやく一人前の宮大工として仕事を任されるようになっていた。


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ある日、隣の市の山すそにある神社の神主さんが現れ、その神社で管理している山奥の社の修繕を頼みたいと依頼してきた。

俺は親方からその仕事を任され、弟弟子を連れて下見に出掛けた。

その社も相当山奥にあり、依頼してきた神社の裏山に三十分ほど入り込んだ場所にあった。 その神社は稲荷神社で、もちろんお狐様を奉っている。
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社の状態は相当酷く、また神主さんもこの一年掃除にも来れなかったと言うだけ有り、汚れ方も大層なもので、 最初の掃除だけで丸一日掛かってしまった。

それから一週間ほど修繕の計画を立て、図面を引き、神主さんと打ち合わせをして、4トントラックに道具と材料を積み込み弟弟子一人と作業に出掛けた。

何時も通りに着工の儀式をしていると、先ほどまで晴れていた空が掻き曇り、大粒の雨が振り出した。

神主さんと俺たちは急いで社の中に逃げ込み、一次祈祷は中断した。

その時、弟弟子が「社に入る前に大きな尻尾の狐を見た」と話し、 俺は「修繕しするのを待っていたお狐様が様子見に来たのだろう」と半分冗談で返した。

しかし、神主さんはなぜか青い顔をしてガタガタと震えており、不振に思った俺が、「どうかなさいましたか?」と聞くと 「い、いやなんでもない。ちょっと気分が悪いだけだ」と答えた。

そして、雨が止んだあと、神主さんは大急ぎで祈祷を済まし逃げるように帰ってしまった。

俺と弟弟子は、そのまま作業に掛かった。
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一週間ほどは平穏に作業が進み、痛んだ箇所を粗方剥ぎ終わり、思ったより酷く痛んでいるので、 俺は修繕の為の計画を再構築する為に一日現場に行かず、弟弟子を一人で片付けにやらせた。

ところが、5時には事務所に帰るように言っておいた弟弟子が帰ってこない。

今の様に携帯電話が普及してる頃ではないので連絡も取りようが無く、6時まで待って帰ってこないので仕方なく俺も社まで行くことにした。

薄暗くなる頃に社に着くと、ヤツの軽トラが未だ停まっている。

俺は階段を上り、いつも通りお狐様に一礼をしてから鳥居を潜り歩き出した。

と、その時俺の背中にに何かが「コツン」とぶつかった。

「?」 俺が振り向くと、別に何も居ない。

足元を見ると、多分俺の背中に当たってであろう小石が落ちている。

何気なくそれを拾い上げてみると、それは小石ではなく蛇の頭だった。

「うおっ!」 驚いた俺はそれを取り落とし、もう一度周りをよく見回してみたが、やはり誰も居ない。 急に不安に駆られ、俺は社に向かって駆け出した。

社の戸を開けた瞬間、何かが猛スピードで俺の脇をすり抜けた。 俺はとっさにそれを捕まえようと振り向き様に掌で掴もうとした。

長い毛を掴んだ感触が有ったが、スルリとすり抜けて捕まえ損なってしまった。

しかし、俺の目にははっきりとした姿は全く見えなかった。

ふと掌を見て見ると、其処には金色の長い毛が数本握られていた。

社の中で、弟弟子は昏倒していた。

急いで抱き起こし、喝を入れたが意識は戻らない。
俺は彼を抱き抱え、急いで神主さんの居る本社へ車を走らせた。
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神主さんに事情を話し、神主さんに救急車を呼んでもらう様お願いし、電話を借りて親方に連絡を入れた。

親方は直ぐにこちらへ向かうと答え、電話を切った。 まもなく救急車と親方がほぼ同時に着き、救急車には親方と一緒に来た別の弟子が同乗して行った。

俺は親方に今日有ったことを報告し、親方は青い顔をして振るえている神主さんを緩やかに問い詰めた。

神主さんが語り始めたのは、夢の話。

半年ほど前から神主さんの夢枕に時々大きな狐が現れ、社を放ったらかしている事を詰り始めたという。

しかし、神主さんは忙しいのに紛れ、更に放置していた所、一ヶ月ほど前に恐ろしい形相の狐が現れもう待てないから、 祟ってやると言い放ち、それからは夢に出てこなくなってしまった。

その後直ぐに神主さんの娘さんが交通事故で大怪我をし、未だ入院中である事。

奥さんが階段から落ち、やはり大怪我をしてしまった事。

そして飼い犬が何者かに攫われ、翌朝耳と鼻がポストに入っていた事。

その辺りで神主さんは祟りが始まったと感じ、ウチに修繕を依頼してきたそうだ。 

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親方は話を聞き終えると目を瞑って考えていたが、目を開くと俺に向かって、 「○○、この仕事は断った方が良いかもしれんな」と言ってきた。

神主さんは驚いて

「そ、そんな!一度受けたのを今更!」

と叫んだが、

「あなたがそういう事情を話してくれなかったのは重大な違反だ。 うちらの仕事は、人様の為だけではなく神様・仏様にも喜んでもらう為の仕事。 そういう事情がハナから解ってれば色々と手の打ち様も有ったが、今からじゃ遅いかもしれん。 それはあなたも良く解ってるはずだ。神主の端くれであれば、な」


俺はこんなに怖い親方を見たのは初めてだった。

見習いの頃、怒鳴られたりぶっ飛ばされたりした時も怖かったが、それとは種類の違う怖さだった。
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親方の迫力に押され、しょぼんとした神主さんを見ていると俺は無性に可哀想になってしまった。

そして、「親方の言う事も尤もですが、一度受けた仕事、俺はやり遂げたいと思います」と答えた。

親方はまたも目を瞑りしばらく考えていたが、

「…うむ。お前はオオカミ様に気に入られたことも有るしな」

と言い、

「よし、それじゃあやれる所までやってみるか。但し、もし異常が続くようなら即座に中止だ。 神主さんもそれで良いですね?」と続けた。

神主さんは「は…はい」と救われたような表情で頷いた。

俺は、オオカミ様の一件を親方が覚えていたのに驚いた。

弟弟子が入院している病院に行き、まだ意識の戻らない彼を見舞って帰る途中、親方が 「…おめぇ最近オオカミ様の所に詣でてねえだろ?」と聞いてきた。

「…オオカミ様って、前に俺が一人で修繕した?」

「そうだ。おめぇがご馳走になったオオカミ様だ」

「はあ…もう二年ばかり伺ってませんが…」

「明日、夕方に詣でて来い。で、神主さんには連絡しとくから、まず神主さんトコ行って守り札二枚貰ってからオオカミ様のお堂に行くんだ。 こういう時の守り札は貰っただけじゃダメだ。 それを持って直接お堂にお願いに上がって、魂を込めてもらわにゃな。 もちろん、酒を忘れんなよ。あと、おめぇが良いと思う女向けの飾りモノでも買ってけ」


「はい、解りました。ところで、稲荷様の工事はいつから再開しますか?」

「おめぇが明日の夕方、守り札を無事に持って帰れたら、明後日から掛かることにしよう」

「無事にって…?」

「二枚のうち一枚はおめぇが持て。もう一枚は入院したXXに届ける。いいな」

親方はそれ以上口を開かず、黙って目を瞑ってしまった。
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翌日の夕方、俺は神主さんから守り札を頂き、久しぶりにオオカミ様のお堂へと向かった。 相変わらず舗装されていない道を走っていると、道の端にさっき守り札を頂いたばかりの神主さんが立って手を振っている。

『あれ、いつの間に?』と思いつつ車を停め、「どうしたんですか?」と聞くと、

「いやあ、さっき渡したお札、間違えたやつを渡してしまったんだ。こっちが正しいヤツだから取替えよう」 と新しいお札を出してきた。

「はあ、そうですか。それでは…」とお札を出そうとしたら、 突然森の中から「ぐるるるる…」と犬が唸る様な声が聞こえてきた。

「ひっ!」 神主さんは跳びずさり、辺りをキョロキョロと見回している。

その顔が明らかにおかしい。 正面を向いているときには普通なのだが、横を向いたときの鼻と口が妙に尖がっている。

俺はハッと我に返ると、神主さんに「後で社務所に伺います!」と叫び車を急発進させた。

「まて!その札ではオオカミは守ってくれんぞ!」この声で俺は確信した。

あの神主さんがオオカミ、等と呼び捨てになどする訳がない。

また、俺に対してもですます調の丁寧な言葉使いだった筈だ。

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俺は車を走らせ、何とかお堂下の階段まで辿り着いた。そして車を停め、階段を駆け上がろうとした。

しかし、なぜか妙に足が重い。そして、幾ら階段を上がっても頂上が見えてこない。 俺は立ち止まると、札を頂くときに神主さんに教わった通り大きく深呼吸をして、目を瞑って大声で叫んだ。

「オオカミ様!お助けください!」

「―――――――っんん……」

俺が叫ぶのと重なるように、聞こえるかどうか、耳鳴りに近い位に遠吠えのような声が聞こえた。 そっと目を開けると、階段の頂上が見えている。

階段を上りきり懐かしいオオカミ様の燈篭に一礼し、 鳥居を潜ると今まで重かった足が嘘のように軽くなった。

そしてお堂の前まで行くと、お札を二枚お堂の前に捧げ神主さんに教わったとおりに祈祷をした。

それからお酒と新しい髪飾りを納めて帰るために鳥居を潜った。
すると、鳥居の真下に光る物が落ちている。
1: 20xx/ミステリー master
それを拾い上げると、なんと以前俺が納めた銀細工の髪飾りだった。

所々に撫で回して出来たようなスレた跡が有るが、それはピカピカに光っていてずっと落ちていたとは思えない。

はっと思い、お堂の前まで戻ってみると酒はまだ有ったが、一緒に納めた髪飾りは無くなっていた。 帰り道、俺の車に沿うようにして森の中を何かがついてくる気配がしていた。

しかし、それは全く怖くなく、逆に安心感と懐かしささえ覚える程だった。

その後、工事は無事に進み、また入院した弟弟子の意識も戻った。 ただ、彼には倒れる前の記憶が全くなく、まさに狐に摘まれた様だった。

後日、親方が料亭で彼の退院祝いと稲荷様のお堂の竣工を祝って内輪で宴会を開いてくれた。

その席で、酔った弟弟子がこんな話を始めた。

「○○さん、実は昨夜夢を見たんです。銀の髪飾りを付けた髪の長い巫女さんが、○○様によろしくお伝えくださいませ、 と言ってニコニコしてる夢。 あと、切れ長の眼をしたちょっと怖そうなおねえさんがその巫女さんに踏んづけられてて。変な夢でした」

それを聞いていた親方は口に含んだ酒をぷっと吹き出し大笑いして、

「そりゃおめぇ、稲荷さんがオオカミ様にコテンパンにやられちまったんじゃねえのか? 明日、俺も行くからオオカミ様と稲荷さんの所に挨拶にいくべえよ」

とまた酒を口に含んだ。

俺はちょっと不満だったが、巫女さんの涼やかな笑顔を想い出し、きゅっと酒をあおった。


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