bandicam 2017-10-11 20-38-54-302

1: 20xx/ミステリー master
もう10年以上前の大学時代の事。

当時、実家の近所にある小さな運送会社で、荷分けやトラック助手のバイトをしていた。 現場を仕切っていたのは、社長の息子で2つ年上の若旦那。









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そしてバイト仲間に同じく大学生のA君がいた。

A君は自他共に認めるアホキャラだったが、明るくて元気で同僚としてはすごく良い奴だった。

会社は町外れの国道沿いにあったのだけど、隣町の商店街の近くにも倉庫があった。倉庫と言っても普通の二階建ての民家。

一階が広い土間になっていて、何年か前までそこで商売をしていたらしいが、借金で店を畳んで住人は居なくなり、 その運送会社が借金の片として手に入れたんだって。

ただ、すぐに使う当ても無かったので、取り敢えず空き家のままになっていた。
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ある時、若旦那が嬉しそうな顔で俺に写真を見せてきた。

「見てみ? あの倉庫で写真撮ったらコレよ!」

見ると薄暗い民家の中を撮った写真なのだが、どの写真にも白っぽい円い光みたいなものとか、白い煙みたいなのがバンバン写っていた。

「うわっ、これ心霊写真ですか?」

「凄いやろー。あの家は出るんだよ」

人がバーンと写っている訳じゃないので、俺は『レンズのゴミだったりして』と半信半疑だったが、 暫くして若旦那がその家に荷物を入れ倉庫として使う事にした。
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若旦那と俺とA君が移動する荷物をトラックに積んでいると、普段あまり現場に来ない社長が俺たちを呼んで言った。

「中崎の家に行くんやろ。二階には上がんなよ」

何のこっちゃと思ったけど、倉庫として使うのは一階の土間だけと聞いていたし、 若旦那も「あーはいはい」と聞き流していたから気にしなかった。

3人でトラックに乗って馬鹿話をしながらその家に到着。

正面のシャッターを開けると、 あまり空気の入れ替えもしないようで中はかび臭かった。 シャッターを開けると4畳半ぐらいの土間があり、その奥は茶の間と台所。

その奥に風呂と便所。

向かって左側に二階へ上がる細い木の階段があった。

奥行きのある家だったから、『二階に二間ぐらいあるんだろうなー』とか考えていた。
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土間を片付けて荷物を積み込み終わると、若旦那がニヤニヤしながら言った。

「…なあ、二階行ってみようや」

俺はその日、バイトが終わったら友人と呑む約束があったので早く帰りたかったが、A君は「行っちゃいますかぁ?」とノリノリ。

俺も嫌とは言えず付き合うことになった。

靴を脱いで、若旦那、俺、A君の順で階段を昇って行く。

やたらに軋む木の階段を昇り切ると薄暗い廊下になっていて、右側に部屋が三つ。

入り口は襖だった。 一番手前の部屋から開けていった。

一番手前(土間の真上)は三畳ぐらいの物置。

真ん中と一番奥の部屋は六畳間で、焼けた畳があるだけで空っぽだった。

白状すれば俺も「社長がああ言ってたし、何かあるかも」とちょっとだけスリルを楽しんでいたが、ぶっちゃけ何も起きなかった。

A君は「何もないすねー」と言いながら携帯で写真を撮りまくっていた。

「まーこんなもんだ。帰るべ」と若旦那を先頭に俺、A君の順番で階段を降りた。

「トントントン」と俺は土間まで降りて、A君を振り返った。

俺に続いて階段の一番下まで降りて来たA君の様子がおかしい。

いつもニヤニヤしてるような顔なのに、強張った真顔で、何故か歯だけゾロっと剥き出してじっと立っている。

そしてビデオの逆再生のように、今降りて来た階段をこっちを向いたまま後ろ向きに昇り始めた。

俺も若旦那も『冗談か?』と思ったが、A君はそのまま階段を「トントントン」と後ろ向きで昇って行く。

進行方向を確認したりもせず、顔はずっとこちらを向いたまま。真顔で歯を剥きだした顔のまんまだ。

A君は後ろ向きのまま階段を昇り切ると、後ろ向きのまま廊下の奥に後ずさって行き見えなくなった。
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何か只事ではないと感じて、俺と若旦那は階段を駆け上がった。

A君は廊下の一番奥の部屋の襖の前で正座していた。

上半身がふらーりふらーり揺れていて、顔は泣き笑いというか、 ホロ酔いで気持ち良くなった人みたいに目を瞑ってへらへら笑っていた。

「おいA!」と何度呼びかけても反応無し。

するとA君の前の襖がゆっくり開いた。

A君は正座したまま襖の方へ少しずつ動き始めた。 A君の体はそのまま部屋の中に入って行き、襖がまたゆっくり閉まった。

血相を変えた若旦那が俺を押しのけて廊下を走り、襖をバーンと開けた。

俺も追いかけた。 A君は空っぽの部屋の真ん中で、身体を伸ばした気を付けの状態でうつ伏せに横たわっていた。

二人でA君を引きずり起こした。

その時、A君がずっと何かを呟いているのに気付いた。

俺にはこう聞こえた。

「さしあげますから。さしあげますから。さしあげますから。さしあげますから。さしあげますから」

そのままA君を外に引きずって行ったが、いくら呼びかけても正気に戻らない。

若旦那が携帯で救急車を呼んだ。

尻窄みで申し訳ないけど、その後のことは断片的にしか知らない。
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その後、若旦那は社長に無茶苦茶怒られていた。

事務所の衝立の向こうで、話の内容はよく聞こえなかったけど、他の社員さんがポロッと漏らしたのは、 借金で店を畳む時にあの家で人が亡くなったらしい。

もちろん社長は知っていて、御祓いを済ませ「綺麗になったら取り壊すつもりだった」とか何とか。

それ以上の詳しい事は、若旦那の口からも聞かせてもらえなかった。 A君は精神的な発作だろうとの事で入院した。

何度か見舞いに行く内にお母さんから話を聞いた。

A君は夜になると毎晩ベッドから出て、床でうつ伏せになっているとの事だった。

あの時A君が写真を撮っていた携帯の画像を見せてもらえないかとお願いしてみたが、 「もうお寺さんに預けてありますので」との事で、写っていたものは見せてはもらえなかった。
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暫くして俺は大学が忙しくなりバイトを辞め、やがてA君の見舞いにも行かなくなってしまった。

最後に行った時はもうA君はガリガリに痩せていたが、それでも毎晩床にうつ伏せに寝ていたそうだ。

『軽はずみにあんな事をするんじゃなかった。俺にも何か起きるかも…』

とビビっていた時期もあったが、 結局俺の身の上には何も起きなかった。

今のところはね。 バイトしていた運送会社はまだあるが、この間帰省した時に前を通り掛かったら、あの倉庫は無くなり駐車場になっていた。

A君は引っ張られてしまったんだろうね……。

正座したまま移動して行ったというのは、つま先だけで「ずっ、ずっ」と進む感じ。

それとも、本当に正座の姿勢のまま身体が移動して行ったのだろうか?

後者だったとしたら相当怖いんだが。





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