1: 20xx/ミステリー master-
トラックドライバーの彼が地元へ向けての復路での事だった。
選択したルートは県境を峠で越え、寂れた村を一つ過ぎ、川沿いを下り、城下町へ出て、会社へあと30キロというルート。
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県境の峠で日付も替わり、対向車もなくなり、寂れた村では灯りの点いてる民家など一つもなかった。
この地上にはもう自分しかいないのではないか?と思わせるような不気味さだ。
川沿いとはいえ辺りは深い山で、城下町まで来てようやく峠を越えたと実感出来るような道だった。
その川沿いを下っている最中、彼は何気にサイドミラーを見た。
お、一台追いついてきたな。
向こう岸へ橋を渡るときもう一度ミラーに目をやる。
ん、乗用車ではないな、トラックか?しかしやけに明るいな電飾バンバンの派手なデコトラだなこりゃ。
最後の長い直線の下りとなったとき、その灯りの主はなかば強引に追い越しを掛けてきた。
おいおい、こんな所でめくらんでももうちょい辛抱すりゃ道も広くなるだろうよ。
そう思い排気ブレーキで少し減速してその灯りと自分のトラックが並んだ瞬間彼は己の目を疑った。
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灯りの主は乗用車でもなけりゃデコトラでもなく、何とこの時代に大八車(だいはちぐるま)なのだ。
しかも大八車をひく者などおらず、荷台にはとてつもなくデカイ猫が乗っている。
そして灯りは電飾などではなく、オレンジ色の炎に包まれているのだ。
デカイ猫は彼に一瞥をくれるとそのまま彼を抜き去り、またたく間に直線の先の最終カーブの向こうへと消えてしまった。
翌朝、会社でトラックを見ると大八車が並んだ右側だけが黒くすすけていた。
それを見た車庫にたむろしていたジジイ共と、あちこち見回っていた社長が寄ってきて口をそろえて言った。
「お前何やこれ?どこ走ってきたんや!」
彼が昨晩のルートと出来事をありのままに伝えると、社長がこう言った。
「う~ん、単なる言い伝えかと思っとったがなぁ、いや、寂れた村なぁ、あそこワシのお袋の出身地なんやが…
その大八車に乗ったデカ猫は"火車(かしゃ)"っちゅうてな、生前の行いのよろしくなかった者の通夜に現れて亡骸を奪い去って行くっちゅう妖怪らしいわ。
城下町で誰ぞよろしくない者が4んだんちゃうか?」
ちょ、社長、妖怪て…お祓いとかしくれんのですか?
「お祓い?ほんなもん、金掛かるがな。なんでも地獄からのお迎えやって話やけどな。 まあ、用があるのは亡骸やろし、お前に災いはないやろ。
ほんでも心配なら綺麗に洗車してよ、事務所の神棚の塩と酒をパッパっとやっときゃええやろ。 ヒッヒッヒ。ほんならワシこれから接待ゴルフやから、後は頼んだで」
そう言って社長はモデルチェンジのたびに新車に入れ替える高級セダンに乗って行ってしまった。
それを見送るとジジイ共がお約束のように彼にこう言った。
「あの狸親父の通夜にも"火車"出よるで。お~くわばらくわばら」
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