bandicam 2017-08-13 07-52-36-046

1: 20xx/ミステリー master
自分の家は中国地方の山奥の田舎にある。
俺はそこでちょっとした自然愛護のクラブに所属していて、 いろいろイベントを企画したり参加したりしていた。
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家から車で20分ほどの所に「○○さん」と呼ばれる山があるんだが、 主にその山を舞台にしてクラブのメンバーで登山や、キャンプなどを催していた。

その○○さんで近々、一般の参加者を募って、クラブのメンバーで 山のガイドをしよう、という企画が持ち上がった。

○○さんの魅力と自然の美しさを、もっと地元の人に知ってほしい、というのが発端。 俺はその企画に賛同し、イベントの下準備などを受け持つことになった。

俺の担当は必要な道具などの準備と、ガイドする場所の選定。 何度も上った山だけに案内はほぼ熟知しているが、 やはり一度山に行って実際に歩きながら考えようと、 休日に一人で○○さんへ向かうことにした。
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その日は良い天気で、絶好の登山日和だった。

俺はデジカメを片手に、要所要所でガイドのパンフで使う写真を撮りながら、 純粋に登山を楽しんでいた。 そうして、目標地点まで半分あたりに来た頃。

湧き水の出る休憩所で一休みしていると、少し天気が翳ってきた。
帰ろうかと思ったが、イベント当日では、もっと上の方まで上がる予定だ。
もう少し歩いて、天気が荒れそうなら引き上げようと、荷物を持ち直す。 と、 「―――……」
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「?」 何か聞こえた。

人の声みたいだったけれど……と、周りを見渡す。
自分が歩いているのはちゃんとした登山コースだ。

別に人と遭遇しても 何もおかしくは無いが、前にも後ろにも人影は無い。 風の音が人の声のように聞こえただけか……と思い直して歩き出すと、 「―――……」 また聞こえた。

聞こえてきた方は、コースからは外れた藪の方からだった。 男とも女ともつかないが、か細く、弱弱しい感じの声。

「誰かいるんですかー!?」

もしかすると怪我でもした登山客がいるのかと思い、声を張り上げた。
だが、返事が無い。

少し躊躇ったものの、藪の中へ向かってみることにした。 気のせいならそれでいい。けれどもし助けを求める人の声だったらと思うと、 確認せずにはいられなかった。

「誰かいるかー!?」 声を上げながら進んでいく。

藪は小柄な人ならすっぽり隠れてしまうほど高く、もし人が倒れていたら 発見は困難だろう。 藪を掻き分けながら注意深く周りを確認して進んでいくと、唐突に、 開けた場所に出た。
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そこは、自分も初めて見る場所だった。
あれだけ密集していた藪が急に無くなり、湿った土の地面に、 ぽつぽつと木が等間隔で生えている場所。

それらの木には注連縄?がついており、その木々に囲まれるように、 朽ち果てた木造の小屋のようなものがぽつんと建っている。
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それはどこの家にもある、物置小屋のように見えた。
俺はしばらく言葉を失い突っ立っていたが、 「―――……ょ」 またあの声が聞こえて、ハッと我に返った。

この先の小屋の方から聞こえた。間違いなく人の声だ。
確認しなければ……と思ったが、何か嫌な予感がした。

まず、ここは何だろう。 こんな場所、俺は知らない。
今まで何度もこの山に登ったが、 こんな場所があるなんて聞いたこともなかった。

周りの木々で光が遮られているため薄暗く、どうにも不気味な感じがする。

「―――……ょ……」

それでも、聞こえてくる声は気のせいじゃない。 人がいるなら、確認しないと。
しかし大声を上げて呼びかける気にならず、息を潜めて、 足音を立てないように、静かに小屋へ近寄っていった。
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……そうして小屋の前まで来て、俺は後悔した。
小屋には扉があったが、その扉にはボロボロになったお札らしきものが びっしりと貼り付けられていた。

元は白かったのだろうが、遠目には茶色っぽく汚れていたそのお札が、 扉の色に溶け込んで見えなかったのだ。

扉には南京錠がついていたが、経年劣化によるものか壊れていて、 ぷらんとぶらさがっているような状態。 そのせいで扉が少し開いていて、隙間が出来ている。
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「―――……ょー……」 声が中から聞こえた。
この時俺はもう泣きそうな心境だった。

普通に考えて怖い、あまりにホラーすぎる。ここから逃げたい。

その一方で、冷静な思考もあった。幽霊や怪物なんているわけがない。
浮浪者の類かもしれないが、山で迷ったか怪我でもした登山客が、 一時しのぎの仮宿としてここを使ってるとしたら。

そう、やはり確認くらいはしたほうがいいんじゃないか?……と。

どのくらい迷ったか、俺は後者の思考に従った。 扉に手をかける。
くいっと押すと、メキメキッ……と埃をボロボロ落としながら、扉が開いた。

中を覗き込むと…………人がいた。

こちらに背中を向けて、部屋の中心に立っている。 ……女だ。

着物なのだろうが、まるでボロボロの白い布切れを纏ったような服装で、 頭はボサボサ、腰辺りまで伸びた白髪混じりの黒髪。 破れた着物の隙間から見える手足は、恐ろしいほどやせ細っていた。
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その足元には、犬か狸か、動物の氏骸が転がっていた。
まだ新しいのか、流れた赤黒い血が床を濡らしている。

「…………ッテー………テー……カー……ョー……」

その女性は、何かぼそぼそと呟いていた。 歌だろうか。
聞き取れないが、一定のテンポを感じる。

ああ、これは駄目だ。

現実離れした光景を見ながら、俺は妙に冷静にそう思った。

見てはいけないものを見た。 関わってはならないものだ……逃げよう。
俺が一歩後ずさると、女がぐらっと揺れて、顔を左右に振り始めた。

ぶるぶる。 ぶるぶる。 ぶんぶんぶんぶん……

振り幅が段々と大きくなり、長い黒髪が大きく振り回される。

「テーーテーーーシャーーーィィカーーーョーーー。」

何を言ってるのかさっぱり分からないが、とにかく異常だった。

俺は逃げた。
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全力で来た道を走る。たぶんこの時、俺は無表情だったと思う。 全ての感情を凍らせて、何も考えずに逃げる。

少しでも何か考えれば、悲鳴一つでも上げれば、正気と恐慌の拮抗が 崩壊してしまうと思った。 パニックに陥るのを阻止するための本能だったのかもしれない。

藪を掻き分けて、元の登山コースに転がり出る。

そこで呼吸を整えながら来た道を振り返ると、 20メートルほど離れた藪の中から、黒い頭が出ているのが見えた。

「―――――。」

硬直した。 頭しか見えないが、あの白髪混じりの黒髪は、さっきのあいつだ。 動かずに立ち止まっているようだが、追ってきてる? すぐに一目散に逃げた。

登山道をひたすら駆け下りていく。 走りながら、首だけで後ろを見る。
登山道横の木の陰に、白い着物が見えた。

さっきよりも近くにいる。
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また走る。走る、走る……振り返る。 木の陰に白い着物。

さっきよりも更に、近い。

「ううううう……!」と、恐怖でうめき声が漏れた。

"だるまさんが転んだ"を連想してもらえば分かり易いだろうか。 走りながら後ろを振り返ると、さっき振り返った時より近い位置に立っている。

全力で逃げてるのに、振り返った時、そいつは今まで走っていた素振りもなく、 さっきよりも近い位置に立っているのだ。

もうすぐ麓の、民家がある集落へ出る。

また振り返ると、3メートルくらいの位置に立っていた。 一瞬だが顔が見えた。

目元はべったり張り付いた髪で隠れていて、 口がモゴモゴ動いていた。
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前を向いて、走る、走る。 もう振り返る勇気は無かった。 次に振り向いたら、俺の背中ぴったりのところにいるんじゃないか。

ゼヒュッ、ゼヒュッ、と呼吸困難寸前になりながら、集落へ。

最初に目に付いた家に飛び込み、呼び鈴を狂ったように連打した。

「誰か!!誰か!!」

俺が騒いでいると、家の中からおばあさんが出てきた。

「なんだいな。どがぁしただ?(どうした、の意味)」

俺の様子を見て驚くおばあさん。 そりゃそうだろう、いきなり大の男が息を切らしてやってきたら。

「すいません、……あの、俺の後ろ、何かありませんか?」

「…なんもあらあせんがな。」

言われて恐る恐る振り向くと、確かにあの女の姿は無かった。
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……これが俺の体験。
クラブの仲間に相談しようかと思ったが、 誰かに話すのも怖くてやめておいた。

予定していた○○さんでのイベントも、当然俺は参加拒否。
あれは何だったんだろう。

最初は詳しく調べる度胸なんて欠片も無かったが、 今はだいぶ恐怖も薄れてきた。

来年あたり、少し探りを入れてみようかなと思っている。



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