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俺は心霊現象とかの類は、まったく気にとめる人間じゃない。
だから、呪いなんかハナから信じていない。
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呪いが存在するなら、俺自身この世にはもう居ないはずだから。
自分自身で書くのも嫌になるが、今までもの凄い数の人たちを傷つけてきた。
さすがに人を頃すような事はしてこなかったが、何人もの女の人生を台無しにしてきた。 こんな俺だから、もし呪いが存在するなら、俺は生きていないはず。
そんなくだらない俺にでも、心から信頼出来る友達がいた。
今から書く話はそいつの話。
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今から一年半程まえに、俺は友達に呼び出された。
その時はお互い仕事が忙しく、会うのは約三ヶ月ぶり位だったと思う。
呼び出された場所に向かうと、俺よりも早く友達の忠司がいた。
「おー早いじゃん」 俺はそう言って忠司に話しかけた。
笑いながら忠司は、「たまには早くくるさ」 そう言い終わると、忠司の顔から笑みが消えていった。
いつもなら飲みに行って話をするのだが、何となくその日はそんな雰囲気ではなかった。 笑みが消えた後の忠司の顔が、それを物語っていた。
「どうしても聞いて欲しいことがあるから、家に来てくれないか」
忠司の顔に全く余裕が感じられない……
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「何かあったのか?」
俺の問いに忠司は、「家で話すわ」
そう言い終わると、足早にその場を離れた。
忠司の自宅に着き、忠司は話し始めた。
「兄貴が仕事中に氏んだ」 そう聞いた俺は、「えっ兄貴は二年前に氏んだんじゃなかったの?」 思わず聞き返した。
「二年前に氏んだのは長男。今回氏んだのは次男なんだ」
思わず言葉が出てこなかった。 仕事中の事故らしい。
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忠司の次男が勤めていたのは、ある大手タイヤ工場だった。
その工場で、主に工作機械のメンテナンスをする仕事をしていたそうだ。
作業後のメンテナンスのために整備していた所、大型の工作機械が突然作動し、その機械に頭部を挟まれ忠司の次男は亡くなった。
即氏だったそうだ。 それを聞かされて俺は、忠司に対して余計に何も言えなくなった。
「二年前に、上の兄貴が事故で氏んだときもおかしかったんだ」
長男の事故の話だった。
忠司の長男は家族三人で、移動中に大型トラックに正面衝突を起こしていたのだ。
「あの時も即氏だった。三人ともな」 忠司の顔は、何かに怒っているように見えた。
その事故は、片側二車線の道路で起こった。 現場検証では、忠司の兄が反対車線に入り走行した事が原因とされていた。 トラックの運転手の話では、よける間も無いくらいの出来事だったらしい。
忠司の言う妙な事とは、突然車線を変えたのもそうだし、ブレーキペダルとフロアの間に、猫が入り込んでいた事だそうだ。
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当然その猫も生きてはいなかった。
「ぶつかる寸前にブレーキをかけたんだろうけど、間に猫がいて効きが悪かったのかもしれない。効いてても回避する事は出来なかったんだろうけどさ……猫なんか飼ってなかったのに」
それを聞いて俺は、「途中で拾ったのかもしれない」 そう忠司に言うと、「それは絶対にない。猫嫌いだもん」 しばらく忠司は黙っていた。
俺は少しで気をまぎらわしてやろうと思い、買い物に行きビールなどを調達してきた。 買い物から戻り忠司にビールを渡し、話の続きを聞いた。
「俺これで天涯孤独になっちゃった」 忠司はそう呟いた。
忠司の母親は幼稚園の頃に亡くなり、父親は四年前に亡くなっていた。
もう家族で残されたのは忠司一人だった。 忠司の表情はとても寂しげに映った。 その表情が突然変わり、忠司は俺に聞いてきた。
「なあ、呪いって信じる?」 思わず呆気にとられてしまった。
「たまにテレビでやってる、木とかにこんこん釘打ったりするやつ?」
俺はあり得ないという表情で答えてやった。
俺のそんな答えに動ずることなく忠司は喋り始めた。
「兄貴二人。そして父親も、呪いで氏んだのかもしれない」
そこからその話は始まった。
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忠司は幼少の頃の話を聞かせてくれた。
そこは普通の田舎町で、これから話す、不可思議な事件が起こりそうな場所では無かったらしい。 忠司の実家の近くには、子供心に相手にしたくない家があったそうだ。 ただ単純に、その家のおばさんの見てくれがもの凄く怖かった、というのが理由だそうだ。
野球をしているときに、たまたまボールがその家の庭先に入ってしまい、しかたなく挨拶をしてボールを取ろうとしたときに、そのおばさんに鎌を持って怒鳴られたそうだ。 そんなこともあり、その家は子供にとっては恐怖の対象でしかなかった。
小学二年の頃、夜中に我慢が出来なくなりトイレに起きた時の話では、ザク、ザクと物音が聞こえてきて、トイレの小さな窓から覗くと、そこには鎌を庭にある大きな木に向かって、何度も突き立てるおばさんの姿があった。
とにかく、その光景があまりにも怖すぎて、その晩は寝ることも出来なかったらしい。 翌日、学校に向かう途中で恐る恐るその木を確認すると、確かに無数の傷と大きな釘が一本刺さっていたそうだ。
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子供の頃は、ただ単純に怖かっただけなんだけど、今思えばあのおばさんには同情するところはかなりある。
その家の主人はもの凄い酒乱で、毎晩のように飲んでは棒れていた。
あの当時は精神的にかなり参っていたんだろう。
忠司はそう言いながら話を続けた。 それから数ヶ月が過ぎ、最初の事件が起こった。 下校途中に忠司と三人の子供達が、あの家の大きな木の下に、人が倒れているのを発見した。
四人で最初は寝てるのかとも思ったらしい。
それでも気になって、他の子が親を呼んで確認させたところ、すぐに救急車が呼ばれた。 倒れていたのは、その家の主人だったそうだ。
すでに息はなく、氏因は心臓発作との事だった。
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近所の人の知らせで、農作業に出かけていたおばさんも呼び出され、すぐに病院に向かっていった。
子供だった忠司は震えていたそうだ。
氏体を見た恐怖と、あの晩のおばさんの奇妙な行動が重なって、余計に怖かったらしい。 それから、おばさんは人が変わったように明るくなっていた。
前とは比べられない程に。 でも、おばさんの笑顔は長くは続かなかった。
その家には二人の息子がいたが、二人ともその家にはいなかった。
次男は人柄もよく真面目で、結婚をして家を構えていたのだが、長男は父親に似て酒乱がたたり、定職にもつけなかった。 父親が氏に、母親の面倒を見るという名目で、長男は家に戻ってきた。
おばさんにとっては、今まで以上に辛い日々になっていったのだそうだ。 昼間から酒を飲んでは母親に棒力を振るい、近所から何度注意されても直る事は無かった。
母親に対する棒力に、次男も何度も抗議に来ていたようだ。
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数日が過ぎた晩、忠司は家族で食事をしていた。
すると玄関を激しく叩き、父親を呼ぶ声がする。声の主は、隣に住むお姉さんだった。 「向こうの木の下に人が倒れている」 そう言ってお姉さんが震えていた。
すぐに父親が確認に向かった。 そして確認して戻ると救急車を呼び、子供達に一歩も家を出るなと言い残して、また出ていった。 しばらくして救急車がきて、騒ぎは大きくなり始めた。 窓越しに確認すると、今度はパトカーまで来ていたそうだ。
その騒ぎは一晩中続いた。 翌日の朝、札人事件が起こったことを知った。 あの家の長男だった。
家にいたおばさんが自分がやったと証言したため、おばさんは警察に連れて行かれたが、翌日の昼間に次男が出頭してきて、おばさんは家に帰された。
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地元の新聞では大きく報道されたそうだ。
次男の判決はさほど重くはならなかった。
動機が母親を助けるためだったのと、周りの証言や、もしかしたら嘆願書も出ててたかもしれないらしく、刑は思いのほか軽くすんだそうだ。
次男の刑が確定したその日、おばさんは家の木で首をつった。 忠司は学校にいたため、事件が起こったことは、家に帰るまで知らなかったらしい。
その家では、二年ほどの間に三人も人が4んでしまった。 あの事件が起こった後は、その家には誰もいないはずなのに、それ以来その家の前を通るのを止めて、大回りして家に帰るのを選んだそうだ。 自宅の玄関からも見える家なのに。
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事件から五年くらいが過ぎた頃、あの家の次男は刑期を終えて戻ってきた。
近所の家を謝罪してまわり、礼を言いながらまわっていた。忠司の家にも訪ねきた。
父親が対応して、「苦しかったね。これから頑張るんだよ」そう声をかけていた。 元からの次男の性格を知る近所の人達は優しかった。
次男も一生懸命に働き、以前の暮らしを取り戻そうとしていた。 次男の妻も真面目で、主人が逮捕された後も別れることなく、帰って来る日を待ちながら家を守り続けていた。 二年後、そんな二人に子供が出来た。
近所の人たちはみんな喜んでいた。生まれてくるまでは。 産まれてきたのは男の子だった。でもその子は心臓に障害を持っていた。
それから次男は、その子の手術のために、今まで以上に働いた。子供を助けるために。 それでも間に合わなかった。
男の子は生後半年で、この世を去ってしまった。 それから二ヶ月後、奥さんはこの世を去ってしまった。 後を追うように、次男はあの木で首をつった。
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近所中に重い空気が流れて、やがてよくない噂が流れ始めた。
あの木があると、これからも良くないことが起こるのではないか。
木を切り倒したほうがいいのでは。 みんなが口々に、木のせいにし始めていた。 それでも、誰も木を切ろうとはしなかった。
しばらくして、自害したおばさんの遠縁にあたるという男二人がやってきて、 「自分たちがこの木を処分します」と言ってきてくれた。 念のためにと二人はお祓いをしてもらい、それからチェーンソーを使ってあっさりと切り倒してくれた。
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かなり大きな木だったこともあり、倒した後に細かくするのに時間がかかってしまい、根の部分は後日にするということだった。
それから数日が経っても、根が掘り返されることは無かった。
木を切り倒した人の一人は、酒に酔い三メートル程の側溝に頭から落ちてしまい、脳挫傷で氏亡。 もう一人は、噂では農作業中にトラクターが横転し、下敷きになり氏亡したと聞いたそうだ。
忠司が高校を卒業して町を離れる頃にも、まだその根は残っていたそうだ。 俺と忠司が出会ったのは、同じ専門学校でのことだった。忠司とはそれ以来の付き合いになる。 忠司は俺とは違い、頭も良く性格も良かった。
そんな奴だから、就職にも困ることはなかった。俺と違い、忠司はすぐに就職した。 忠司が就職してからも、俺たちの付き合いは続いた。 会うたびに女のことで説教をされていた事を、今でも思い出す。
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就職して三年ほど経過した頃だろうか。それはあまりにも突然だった。
忠司の父親が心臓発作で他界した。
忠司が言うには、病気など患った事など無かったから、もの凄くショックを受けたらしい。 忠司が実家に大急ぎで帰ったとき、すでに二人の兄が帰って来ており、通夜の準備に追われていたそうだ。
それから数日が経ち、葬儀も終え、三人は久しぶりに実家で酒を飲んだそうだ。 その時に長男が、二人の弟に語りかけた。
「二人ともあの家の木を見たか?」 そう言われて忠司は、次男と顔を見合わせて 「何のこと?」 長男に聞き返した。
「根っこだけ残ってた木のことだよ」
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そう言われて二人は、あの木のことかと思い出したらしい。
長男は続けた。
「もう更地になってるんだよ。そして、あの木の根を掘り出したのが親父なんだ」 それを聞いて、忠司の中で眠る忌まわしい記憶が蘇ってきた。
次男はいきなり、怒気を強めて長男に食ってかかった。
「ふざけるな。じゃあ親父は、あの木に祟られて4んだっていうのかよ。ただ掘り返しただけで祟られるのか。馬鹿げてるぞそんなもん」
しばらくみんな黙っていた。 忠司は疑問に思ったことを口にした。
「何で親父は木の根を掘り返したんだろ。兄貴は何か聞いてない?」
その問いに対して、二人の兄は首を振るばかりだった。 長男は首を振りながら、
「掘り返した理由は俺にもわからん。だけど掘り返した後、親父は突然氏んだ。どうしても俺には、偶然には思えないんだ」
次男は、「兄貴やめてくれないか」 そう言って話を遮ろうとしたが、それでも長男は話を続けた。
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「昨日さ、夢に親父が出てきたんだ。俺を見ながら、何度もすまないすまないって言うんだよ」
それを聞いた次男は、
「何で兄貴の所だけに出て、俺たちの所には出ないんだよ」
忠司を見ながらそう語りかけた。 その問いに対して長男から出た言葉に、二人とも驚いたらしい。
「次は俺なんじゃねーの。だから親父は、俺に謝りに来たんだろ」
二人はそれを聞いて押し黙った。 その日はそれ以上、そのことを三人とも語ろうとはしなかった。 その後、長男の言った一言によって、三人は今まで以上に連絡を取り合うようになったそうだ
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父親の4後一年九ヶ月経った頃、突然長男と連絡が取れなくなった。
次男からもその連絡が来た。
家に電話をしても、嫁さんすら出ないとの事だった。 次男は不審に思い、長男の勤める会社に電話したそうだ。 会社から返ってきた言葉は意外だった。
一ヶ月ほど前に突然退社したと聞かされた。 二人はすぐに長男の自宅に向かった。 何度呼び鈴を鳴らしても、誰も出てくることはなかった。
不審に思ったのか隣の住人が出てきて、話を聞いてくれた。 すると隣の人は笑いながら、 「三人で旅行に出かけるって言ってましたよ」 そう教えてくれた。
二人にはどうしても納得がいかなかったらしい。
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何で俺たちに何も告げずに出かけるんだ?あれだけ密に連絡を取り合ってたのに。
それからすぐに二人は、行きそうな場所として実家に向かった。
主の居なくなった家にたどり着いたが、そこにも三人の姿は無かった。
それから二日後、二人の元に警察から連絡が来た。 長男一家が事故氏したと言う知らせだった。 事故の原因は、先に書いた通り不可思議なものだった。
葬儀が終わっても二人は押し黙っていた。 しばらくして二人は、長男一家の家の整理に追われた。 家の片付けをしている時に、忠司は長男が残したであろうメモ帳を見つけた。 そこには奇妙なことが書いてあったらしい。
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『俺が何をした』
その言葉が、何ページにもわたって書き綴られていたそうだ。
最後のページには、
『俺と龍一郎そして忠司これで三人だ。もう終わりにしてくれ』
次男と忠司の名前が書かれていた。 それが最後のメモだった。 次男にそれを渡し、忠司は押し黙った。 それを見た次男は、「兄貴は神経質すぎたのかもしれない」 そう言い終えて、次男も黙りこくってしまった。
忠司は心底おびえたそうだ。 馬鹿にする次男を無理にさそい、祈祷師やらその手の除霊専門の所を、何カ所も回ったらしい。 細かく書けば、本当に凄い量になってしまう。 だからかなりはしょってるから、勘弁して欲しい。
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長男が亡くなって二年経ち、次男が事故4した。
そしてその話を俺は聞かされた。
呪いと言われても、俺にはどうしてもピンとこなかった。
その話を聞いた後、俺は忠司に話し出した。
「なあ忠司。もしさ、呪いが存在していたら、俺は絶対に祟られてるよ。 お前も知ってるよな。俺が今まで、色んな女にしてきた仕打ち。お前が知らない話だってある。それこそ、いつ夜道で刺されてもおかしくないくらいだ。 刺されないにしても、相当恨まれている事は確かだと思う。現実に呪いが存在するんなら、俺はもう4んでるはず」
でも俺がどんなに語ろうが、忠司の周りでは不可解な事が起きているのは事実。 俺自身が一つずつあれやこれや説明しても、納得するわけもなく、話は平行線を辿るだけだった。 忠司は俺と話した後に、すぐに所持していた車を処分した。
「車で事故なんて嫌だし」 忠司は苦笑いしながらそう言っていた。
それからしばらく、何事もなく過ぎていった。 その間も、俺と忠司はちょくちょく会っていた。会って食事したり飲みに行ったりしてた。
しばらく会ってないなと気になりだしたときに、忠司から連絡がきた。
『病院にいて暇だから、見舞いにでも来てくれよ。話もあるし』
それを聞いて俺はすぐに病院に向かった。
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病室に入り忠司の姿を見たときは、もの凄くショックだった。
別人かと思うほどやせ細った忠司がそこにいた。
動揺してることを悟られたくなかった俺は、 「個室なんてえらい豪勢だな」と笑って語りかけた。
すると忠司は、「俺これでも結構カネ持ってるんだよ」 笑いながら答えてくれた。 俺は病気のことは全く無知だからよく知らないが、進行の早い癌だと説明された。
余命三ヶ月。あまりにも突然の宣告だった。 忠司は話を続けた。
「呪いだよ」 そう言い放った。
俺はすぐさま「あるわけ無い」と食ってかかった。 忠司も言い返す。
「じゃあ偶然にも俺たち家族は、こんなにも短期間の間に全員が4ぬのか!」
忠司の目は怒りに満ちていたと思う。
話すうちに冷静になった忠司は、
「お前に頼みがあるんだ」
「俺は出来ることは何でもしてやるから」 そう言った。
今になれば、その言葉は言うべきでは無かったと後悔している。
- 1: 20xx/ミステリー master
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忠司の頼みとは、彼女の事だった。
忠司は学生の頃から、文代という女と付き合っていた。 忠司の彼女だから、俺もよく知っている間柄だった。 本当に良い子なんだ。忠司にはお似合いの彼女だった。
「文代の事なんだけどさ。お前、あいつを口説いてくれね」
それを聞かされた瞬間、俺は呆気に取られた。 忠司が言うには、病気のことを彼女に話した所、「今すぐに結婚するんだ」って言われたらしい。
呪いのことは、気が引けるらしく言えなかったそうだ。 まー言ったところで、聞く耳もつ女では無いと思うが。 俺は呆気に取られながらも言い返した。
「俺にも好みはあるんだよ。自己主張のキツい女には興味はない」
それでも忠司は、「お前以外にそんなこと頼める奴いないんだよ」
「そりゃそんなアホなこと頼めるのは俺ぐらいだろうけどさ、それは無理な話だ。俺が俺のままの性格で文代の立場でも、別れ無いと思うぞ」 そう言ってたしなめた。
「もし文代が俺と結婚したら、どうなると思う?」 忠司はそう俺に問いかけた。
「辛いかもしれないけど、本人が望むことなんだから仕方ないだろう」
そう答えるしかなかった。
「結婚して呪いがそのまま文代にかかったら、俺は4んでも4にきれない」
忠司の言葉は切迫していた。納得いくわけはない。 それでも忠司が呪いに拘るのであれば、文代と話してみようと俺は思った。
俺自身は呪いは否定している。それでも、これだけ続くと正直怖い。
俺が別れさせ無かったことが原因で、文代の身に何か起こったら……
そう考えると、たまらない気持ちになった。
- 1: 20xx/ミステリー master
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俺はそれからすぐに、文代に連絡を取った。
強引に時間を作らせ、会う予定を入れさせた。 久しぶりに会う文代の顔は、見るからに疲れていた。お互い笑顔など無かった。
「忠司の事なんだけどさ」 そう切り出した。
文代は俺の話を遮るように、「別れる気はないから」 その言葉に、俺は次の言葉を見失った。 それでも何とか平静を装いながら、 「いきなりそれかよ」
そう言って文代の顔を見た。 文代の目は真っ赤だった。
文代にしてみれば、俺が何の話をしに来たのか、大体は想像ついていたんだろう。 忠司の代弁を頼まれて来たのだろう事を。
しばらく二人は黙っていた。
「別れることはもう出来ないよ」 いきなり文代が切り出した。
「そりゃそれだけ長く付き合ってたんだから、仕方ないさ」 俺はそう返した。
「そんなんじゃないよ」 文代は続けた。
「子供が出来たんだ。あの人の分身が、この中にいるの」
そう言って文代はお腹をさすった。
- 1: 20xx/ミステリー master
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俺はその言葉を聞いて、頭の中が真っ白になった。
さらに文代は、 「子供が出来たことを彼に伝えれば、もしかしたら病気も治るかもしれない」 涙を流しなら文代は言った。
その言葉を聞いて、俺は我に返ったのだと思う。
「今のあいつには絶対に教えるな」 その言葉に文代は切れてしまった。 店の中だと言うことも忘れて、二人で言い争った。
程なく店員に注意された。 それでも口論が収まることはなく、結局話は平行線のまま、店を追い出されてしまった。
店を出て歩きながら、俺は文代を説得する方法を考えていた。 歩きながら文代に聞いてみた。
「そもそも何年間付き合ってきたんだよ」
「これだけ長く付き合ってきたのに何で今、子供出来るの?」
「気をつけていたんだろ」 俺自身が疑問に思ったことだった。
文代は答えてくれた。
「今まではちゃんと気をつけてたよ」 文代は続けた。
- 1: 20xx/ミステリー master
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文代の話を聞いていくと、俺は寒気を覚えた。
四ヶ月くらい前に、変な夢を見たんだそうだ。三日間、夢は続いた。 最初に見た夢は、会った事もない男性で、何度も同じように「すまない、すまない」と言い続けていたらしい。
会ったことのない人なんだけど、何となく忠司に似ていたそうだ。 次に見た夢は、亡くなる前に紹介されていた次男だった。
同じように「ごめんね」と何度も言われた。
そして最後に見た夢は、忠司本人だった。 何度も振り返りながら、手を振っていたそうだ。 その夢を見て嫌な予感がしたらしく、結婚を急がなければと感じたらしい。
でも、出来た事がわかる前に忠司は入院してしまった。
文代はこうも言っていた。
「あの夢は、この事を伝えたかったんだと思う。 だから、子供が出来たことを知れば、必ず直ってくれるよ」
頭がおかしくなりそうだった。
「今日はもう遅いから明日また話そう」 と、文代を家に帰した。
- 1: 20xx/ミステリー master
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その日は一晩中、寝ることは出来なかった。
何が最良なんだろう……
自問自答を繰り返して出た答えは、文代に呪いの話を告げることだった。 翌日は、文代を俺の家に呼んで話すことにした。 こんな話は外では出来るわけもない。
体のことも心配だったし。 文代と話をし、すべてを教えてあげた。 何人もの人が4に、そして忠司の家族が亡くなり続けていることも。
夢の話や、細かい事もすべて話した。
文代はため息を付きながら、 「言えないよね、呪いなんて」 そう言った。
「それが結婚に踏み切れない理由だったんだね」 文代は泣いていた。 俺は文代に言った。
「あいつが呪いを信じてる以上、子供のことがわかれば、産むなと言ってくるだろう。もし文代が産む覚悟なら、絶対に言うな」
文代は、 「あの人の性格を考えれば言えないよね。でも出来ないよ」 涙をこらえながら言う文代を見て、俺は泣けてきた。
その後に俺たち二人は、これからのことを話し合った。 人の人生をこれだけ真剣に考えたのは、俺自身初めてのことだったかもしれない。
忠司の病が奇跡的に治ってくれれば、どれだけいいだろう。 それから俺は、暇があれば忠司の元に見舞いに行き、文代ともよく話をした。
忠司の病状は一向に良くはならなかった。
二ヶ月も経たないうちに忠司は危篤状態に陥った。
持ち直すことなく忠司は他界してしまった。
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俺が駆けつけた時には、すでに忠司の体からは温もりは消えていた。
忠司は、自分が亡くなった後のことをよく考えていてくれた。
文代に保険のことや遺産のこと、俺と文代に葬儀のお願いや後の処分方法など。 文代に宛てた手紙。俺と文代に宛てた手紙。そして俺に宛てた手紙。
俺と文代に宛てた手紙には、もの凄く感謝の込められたものだった。 文代に宛てた手紙も、同じようなものだったらしい。
ただ、俺個人に宛てた手紙は違っていた。
その手紙の内容は、文代に見せられるようなものではなかった。 忠司が亡くなって半年ほど経った。もうすぐ文代は出産する。 無事に生まれてきてほしい。何事も無く成長してほしい。
ひたすらそう願うしかない。
俺は、忠司の残した遺言で今も悩んでいる。なんでこんな物を残したんだ。 忠司の残した手紙の中には、俺と文代の婚姻届が同封されていた。
そして忠司の残した手紙。
『文代のお腹に居る子供は俺の子供ではない。お前の子供だ。だからお前は、責任を取って文代を幸せにしろ』 忠司は、子供が出来ていたことに気づいていたのだ。
だからって強引に俺の子供にするなよ。 お前なりに考えたことだろう。
きっと、呪いの事で頭がいっぱいになっていたんんだろう。
お前の気持ちは良くわかる。でもこれはないだろ。 最後に忠司はこう綴っていた。
『頼むから文代を幸せにしてくれ。頼むからこの願いを叶えてくれ。もし叶えてくれなければお前を呪う』
忠司の身の回りで起きたことは、偶然だと俺は思いたい。
忠司が呪われる必要は、何一つ無かったはずなんだから。
もしかしたら、これは俺自身が招いたのかもしれない。
今までしてきたことの罰なのかな……
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